エイリアン


 『エイリアン』(Alien)は、1979年公開のアメリカ合衆国の映画。監督はリドリー・スコット、脚本はダン・オバノン、主演トム・スケリット、シガニー・ヴィーバー、上映時間117分。


    概要

 大型宇宙船の薄暗い閉鎖空間の中で、そこに入り込んだ異星人(エイリアン)に乗組員たちが次々と襲われる恐怖を描いたSFホラーの古典であり、監督のリドリー・スコットや主演のシガニー・ウィーバーの出世作でもある。エイリアン(Alien)が「(敵対的な)異星人」を意味する単語として広く定着するきっかけともなった。エイリアンのデザインは、シュルレアリスムの巨匠デザイナー[3]H・R・ギーガーが担当した。本作以降、続編やスピンオフが製作されシリーズ化した。 スコット自身による本作の前日譚となる3D映画『プロメテウス』が2012年6月に世界各国で公開された。
 1980年の第52回アカデミー賞では視覚効果賞を受賞。同年第11回星雲賞映画演劇部門賞受賞。
 公開時のキャッチコピーは「宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない。(In Space No One Can Hear You Scream.)」。



            あらすじ

 西暦2122年、宇宙貨物船ノストロモ号は他の恒星系で採掘した鉱石を積載し、地球へ帰還する途上であった。乗組員達はコールドスリープから目覚め、到着も間近かと思われた。しかし、船を制御するコンピュータ「マザー」が、知的生命体からのものと思われる電波信号を受信し、その発信源である天体に進路を変更していたことが判明する。困惑する乗組員達だが、科学主任のアッシュによると雇用主のウェイランド・ユタニ社は契約書に「知的生命体からと思しき信号を傍受した場合は調査するように」と書いていた。やむなくノストロモ号は牽引する精製施設を軌道上に切り離し、発信源の小惑星に降り立つ。
 船長ダラス、副長ケイン、航海士ランバートの3人が船外調査に向かい、謎の宇宙船と化石となった宇宙人を発見。その宇宙人には中から何かが飛び出したような傷痕があった。調査を進めるうち船の底に続く穴があることを発見。ケインがそこに降りると、巨大な卵のような物体が無数に乱立する空間へ辿り着く。その一つに近付いた際、彼の身に予期せぬ事態が発生する。その頃、船に残った航海士のリプリーが信号を解析した結果、それは遭難信号などではなく、何らかの警告であることが判明し、彼女は不安に駆られる。
 3人は船に帰還したものの、異変を感じたリプリーは防疫を理由に船内に入れることを拒む。しかし、アッシュの判断によりエアロックが開けられた。そこでリプリー達が見たものは、サソリのような生物(フェイスハガー)がヘルメットのシールドを溶かし、ケインの顔に張り付いた姿だった。アッシュが調べた結果、ケインは昏睡状態だがフェイスハガーは彼に酸素を供給していた。すぐに除去しようと体の一部を外科装置で切ろうとすると強酸のような体液が流れ出し、船の床を溶かし下層まで穴が空いた。危険だと判断し引き剥がすのは断念したが、フェイスハガーはその後、自然にケインの顔から剥がれ落ちて死んだ。リプリーはすぐにその死骸を捨てるべきだと主張するが、アッシュは貴重な地球外生命体のサンプルなので死骸を地球に持ち帰るべきだと主張し、ダラスもそれに同意した。リプリーはこのような大事な決定をなぜアッシュ1人に任せるのかと彼に詰め寄るが、会社の意向だと押し切られ、彼女は不満をあらわにする。
 船は小惑星を離陸したが、地球まではまだ10ヶ月も旅をしなければならなかった。その後ケインは意識を取り戻し、何事もなかったかのように回復したかに思われた。しかし、乗組員たちとの食事中に突然激しく苦しみだすと、やがて胸部を食い破って奇怪なヘビのような生物が出現、驚愕のあまり呆然とする乗組員の間を駆け抜け逃走する。ケインはフェイスハガーによって体内に幼体(チェストバスター)を産み付けられていた。
恐るべき事態が発生したことを認識した乗組員達は船内を捜索するが、その間に脱皮し、より大型に変貌したエイリアンは機関士のブレットを襲い、通気口へ身を潜める。乗組員達はアッシュのアドバイスに従い、エイリアンをエアロックへ追い込み、宇宙空間へ放出する事に決定。追い立てるためにダラスが単身通気口に進入するが、エイリアンの能力は彼らの想像を遥かに上回っており、返り討ちに遭う。
 船長を失った一同は団結力を失う。リプリーと機関長のパーカーはダラスの立てた作戦を続行しようと主張するが、ランバートは船を棄てて脱出艇で逃げることを提案する。しかし、シャトルに4人全員が乗ることはできなかった。そんな中、リプリーは議論に参加しないアッシュの態度に疑念を抱き、直接「マザー」に詳細を問いかける。そこで彼女は、会社が秘密裏に「生きているエイリアンの捕獲と回収」を最優先事項としていたこと、さらに「乗組員の命が犠牲となってもやむを得ない」とプログラムされていることを知り、アッシュに怒りをぶつける。
真相を知ったリプリーをアッシュが襲い殺害しようとするが、駆けつけたパーカーとランバートが阻止し、アッシュは「破壊」された。彼の正体は、会社が乗組員たちを監視するために送り込んだアンドロイドであった。リプリー達はアッシュを修理して尋問したところ、会社は最初からエイリアンの捕獲と回収を目的として乗組員を雇っており、その為にはいかなる犠牲も顧みないつもりであること、また、エイリアンは完璧な生命体であり、生き延びられる可能性はないと告げられた。
 もはや会社との契約を守る意義のなくなったリプリー、ランバート、パーカーはアッシュを火炎放射器で焼却して完全に破壊、本船を切り離して自爆装置で爆破し、脱出艇で逃れて救助を待つ計画を立てる。しかし、彼らが二手に分かれて脱出の準備をしている間に、エイリアンは通気口から這い出ており、ランバートとパーカーに襲いかかる。悲鳴を聞いたリプリーが駆けつけるが、そこには2人が無惨な姿で残されていた。
たった1人残されたリプリーは、深い悲しみと恐怖に襲われながらもノストロモ号の自爆装置を起動し、猫のジョーンズを連れてシャトルに乗り込もうとするが、その入口を目前にして通路上にエイリアンがいることに気づく。大慌てで脱出を中断し、自爆装置の解除を試みるが僅差で間に合わず、カウントダウンは止まらなかった。決死の覚悟でリプリーはシャトルの入口に戻るが、そこには誰もいなかった。エイリアンが通路から立ち去っていることを何度も確認し、ジョーンズと共にシャトルへ搭乗、ただちに発進させる。直後にノストロモ号は大爆発し、全ては終わったかに思われた…。




   登場人物

 アーサー・ダラス(Arthur Dallas)

  役:トム・スケリット
 ノストロモ号船長。リーダーシップはあるものの、雇用主である会社の命令には忠実で、そのことが原因でリプリーと口論になることもあった。エイリアンを退治する為に自らダクトに潜入する役を買って出るが、狭いダクトの中で身動きに苦心する中、エイリアンに襲われ行方不明となる。
 ディレクターズ・カット版では自爆直前にはまだ生きており、船の下層でブレットと共に繭にされていた。殺してくれとリプリーに懇願し、火炎放射器で焼かれ死亡。
なお、『AVP2』には同名の主人公(ダラス・ハワード)が登場する。

  エレン・リプリー

 役:シガニー・ウィーバー
 二等航海士[脚注 1]。ダラスとケインが船外にいる場合は彼女がノストロモ号の指揮を代行する。ジョーンズという名の猫(船中猫)を船内に連れ込んでいる。責任感が強く行動力もあり、乗組員の中で唯一生き残る。シリーズを通じての主人公。

  ジョーン・ランバート(Joan Lambert)

 役:ヴェロニカ・カートライト
 二等航海士・操舵手。脱出艇で地球圏へ逃れて救助を待つ計画を提案する。アッシュに襲われたリプリーを介抱し、彼にとどめを刺した。脱出艇の発進準備中にエイリアンに遭遇し、恐怖で身動きが取れなくなったところをパーカーと共に殺された。
ディレクターズ・カット版では、リプリーが自分達を入船させようとしなかったことに怒り、彼女に掴みかかって平手打ちをするシーンがある。

  サミュエル・ブレット(Samuel Brett)
 役:ハリー・ディーン・スタントン
 機関士。パーカーの相棒で、「そのとおり」が口癖。ジョーンズを捜している最中にエイリアンの抜け殻を発見する。その直後に成体となったエイリアンに襲われ連れ去られる[脚注 2]。
ディレクターズ・カット版ではダラスと同様に繭にされた姿で発見されるが、もはや殆ど原型をとどめておらず、生きているかも分からない状態であった。最期はダラスと共に火炎放射器で焼かれた。

  ギルバート・ケイン(Gilbert Kane)
 役:ジョン・ハート
副長、一等航海士。船外活動でエッグチェンバーに近づき、フェイスハガーに寄生される。最期はチェストバスターにより胸部を食い破られ、エイリアンの最初の犠牲者となる。遺体は宇宙葬にされた。

  アッシュ(Ash)
 役:イアン・ホルム
 科学主任。出発の2日前に別の担当者と入れ替わった。フェイスハガーの分析を行ったほか、エイリアンを発見するための動体探知機(モーション・トラッカー)を作製したが、対応は常に後手に回り、乗組員たちが命を落とす結果となる。その正体は会社の密命を受けたアンドロイドで、真の目的をリプリーが知ったため、彼女に襲いかかる。直後にランバートとパーカーに制止され、パーカーに頭部を破壊されるが尚も彼に襲いかかったためにランバートによって破壊された。修復後に受けた尋問でエイリアンを「生存のため良心や後悔に影響されることのない完璧な有機体」と称え、最期に同情の言葉と共に不気味な嘲笑を浮かべて完全に機能停止した。
 『2』によれば型式はハイパーダインシステムズ社製120-A/2。アッシュ達人造人間の分類呼称は映画シリーズ内では「アンドロイド」だが[脚注 3]、派生作品のゲームなどでは「シンセティック(synthetics、合成人間)」と呼ばれている事もある。

  デニス・パーカー(Dennis Parker)
 役:ヤフェット・コットー
 機関長。黒人。仕事の割に自分とブレットの給料が少ないことに不満を抱いていた。度々故障や損傷をしたノストロモ号を彼と共に修理したほか、エイリアンを倒すために即席の火炎放射器を作成するなど、修理だけでなく機械工作や兵器の取り扱いにも長ける。脱出の準備中にエイリアンと遭遇したが、ランバートとの距離が近かったために火炎放射器を使う事ができず、彼女を救うために飛びかかったものの、エイリアンの反撃を受け殺された。



    設定

 小惑星
 銀河系の外縁、ゼータ第2星団(Zeta II Reticuli)にある星を巡る小惑星。謎の遺棄船が存在していた。大気組成は窒素、メタン、高濃度の炭酸ガスが主成分。気温は零下。劇中では単に小惑星と呼ばれ、LV-426の名称で呼ばれるのは『2』から。
 ディレクターズ・カットの追加シーンでは約1,200km[脚注 4]。自転周期は約2時間。重力0.86Gとされている。
 なお「ζ2 Reticuli」は実在しており、レチクル座内で最も地球に近い(39光年)星である。

  スペースジョッキー
 小惑星で発見された異星人の化石。身長約4.9m、体重約272kg[4]。象のような鼻をもち、伸びた先端は胸骨と一体化するかのように埋没している。操縦席らしきものに着座したまま化石化していた。腹部から何かが飛び出したような形跡がある。彼らの宇宙船には大量のエイリアンの卵が積載されていた。エイリアンの創造主ではないかと考えられているが詳細は不明[4]。
 『プロメテウス』にも同型の異星人が登場しており、象のような鼻はマスクであり中身は人間と同様の顔があると設定された。

  USCSSノストロモ号
 ウェイラン・ユタニ社が所有する宇宙貨物船。本体部分とそれに牽引される巨大な4つの塔のような鉱石精製施設で構成される。作中の時点で2,000万トンの鉱物を積載していた。作品の舞台となるのは本体部分で、精製施設の内部は登場しない。メインフレームAI「マザー(形式名は「MU-TH-R 6000 182モデル」、記憶容量は2.1TB[4])」によって制御・管理され、最小限の人員での運航が可能となっており、乗組員のコールドスリープ中には自動航行も行う。右舷下部に脱出艇「ナルキッソス」が格納されている。また、左舷下部には第2脱出艇の「サルマキス」も搭載されているが劇中では未登場[5][脚注 5]。最後はエイリアンの脅威から逃れるためリプリーらの判断で自爆させられた。『2』では自爆による損害は4,200万ドルと算定されている(鉱石の価値を除く)。
 形式名はロックマート社製CM-88BバイソンM級宇宙貨物船[脚注 6]、登録番号は180924609、全長334m、全幅215m、全高98m。2101年に星間クルーザーとして製造され、2116年に商用牽引船(Commercial Towing Vehicle)に改装された[5][脚注 7]。スペック自体はデザイン草案の段階からロン・コッブが練り上げデザイン画に書き込んでいる[6]。
 船名はイギリスの小説家ジョゼフ・コンラッドの小説『ノストローモ』に由来する[7][脚注 8]。
自爆装置は核融合炉の冷却剤濃度を減少させ、臨界をもたらして爆破させる仕組み[5]。時限自爆装置が稼動すると「マザー」が「この船はTマイナスX分以内に破壊される」と自爆までの時間を読み上げるが、これは間違いである。「T」は通常、ロケットの打ち上げに代表されるようなイベントの時刻を表し、それ以前の時刻を「TマイナスX分(秒)」で表すので、「TマイナスX分以内に破壊される」では意味を成さない。『2』では「X分以内に」となっている。

  ナルキッソス
 ノストロモ号の右舷下部ドックに格納されている脱出用シャトル。定員は3名。普段はダラスが一人で音楽を聴く個人スペースとして利用されていた。形式名はロックマート社製スターキャブ級軽イントラシステム・シャトル。
 ナルキッソスは発進後に前進ではなく逆噴射をかけることでノストロモ号から離脱した。シャトルの前方窓から遠ざかる姿が見えるのはこのため。
デザインはコッブによる。名称はノストロモと同じくコンラッドの作品『ナーシサス号の黒人』から[7]。

  ウェイラン・ユタニ社[脚注 9]
 シリーズを通して暗躍する巨大複合企業。リプリーらを利用してエイリアンを生きたまま捕獲し、軍事利用しようと目論むが、その企業実態は詳しくは語られていない。作中では「会社」とだけ呼ばれる。
 社名は当初「レイランド・トヨタ」とするつもりだったが、当然のことながら権利上の問題で使用出来ず、「Leyland」をもじって「Weylan」に変更し、コッブの知人の日本人から「ユタニ(湯谷)」という日系の名称を採った。



   スタッフ

 製作総指揮 - ロナルド・シャセット
 製作 - ゴードン・キャロル、デイヴィッド・ガイラー、ウォルター・ヒル
 監督 - リドリー・スコット
 原案 - ダン・オバノン、ロナルド・シャセット
 脚本 - ダン・オバノン
 撮影 - デレク・ヴァンリント
 美術 - マイケル・シーモア、(ロジャー・クリスチャン ※ノンクレジット)
 クリーチャーデザイン - H・R・ギーガー
 クリーチャー造形 - H・R・ギーガー、ロジャー・ディッケン
 クリーチャー効果 - カルロ・ランバルディ
 音楽 - ジェリー・ゴールドスミス
 提供 - 20世紀フォックス、ブランディワインプロダクションズリミテッド




    原案

 『エイリアン』の原案はダン・オバノンによって生み出された。南カリフォルニア大学在学中の1974年、ジョン・カーペンターと組んで『ダーク・スター』を製作したオバノンは、より本格的なSFホラーの製作を望んでおりオリジナルの脚本を温めていた。それは『メモリー』という題で、「宇宙船が未知の惑星に降り立ち、謎の生命体を発見する。乗組員がそれに寄生され、やがて体内から怪物が誕生する」という内容であった。当初は38ページに満たない未完成の脚本で、怪物の姿が漠然としていたことから展開に行き詰っていた[8]。
 そんな折、オバノンに接触してきたのがロナルド・シャセットである。彼はフィリップ・K・ディックの短編作品『追憶売ります』の映画権を取得していたものの、まだ仕事がなかった。『ダーク・スター』を見てオバノンを同好の士と考えたシャセットはオバノンに会いたいと手紙を書く。南カリフォルニア大学のキャンパスで『メモリー』を読んだシャセットは「『メモリー』を完成させたら自分がロジャー・コーマンの元に持ち込むので、自分の『追憶売ります』を翻案する作業の手助けをして欲しい」と共同作業を提案した[9][脚注 10]。
 この頃、『デューン/砂の惑星』を企画中であったアレハンドロ・ホドロフスキーから、オバノンに同作の特殊効果担当の依頼が舞い込む。オバノンは許諾し製作チームに加わった。これにより『メモリー』の脚本は一時的に宙に浮くこととなる。チームには宇宙船のデザインにクリス・フォス、コスチュームデザインとしてジャン・ジロー、さらにサダムIV世役に指名されていたサルバドール・ダリの推薦により、後にH.R.ギーガーが加わっていた。しかし『デューン/砂の惑星』は資金難から製作半ばにして中止となり、オバノンは無一文となってしまう。胃の病を発症していた彼はシャセットの家に転がり込み一週間もふさぎ込んでいたが、未完のままの『メモリー』を完成させるようシャセットに提案され、再び脚本を練り始めた[10][11]。
 オバノンは『メモリー』とは別に『グレムリン』という脚本を構想していた。それは「東京から帰るB-17の中にグレムリンが侵入し、乗組員を一人、また一人と殺していく。怪物を倒さない限り乗組員は故郷へ帰れない」という骨子であった。その要素を応用してはどうかというシャセットの助言を受け、オバノンは『メモリー』に適用させた。すなわち舞台を爆撃機から宇宙船へ、グレムリンを異星の怪物に変更したのである[11]。完成したそれは宇宙空間における『テン・リトル・インディアンズ』と呼べる内容となった。この時点で脚本の基本的な流れは完成版と同一であったが、乗組員が発見するのは遺棄船ではなく「ピラミッド」であることや、卵ではなく「胞子ポッド」から出てきた寄生体に襲われる、宇宙船の名前が「スナーク号」であるといった差異がある[12]。題名は『メモリー』から『スタービースト』へと変更された[13]。
 『スタービースト』の内容はロジャー・コーマンの目を引いたが、企画が形になる前に、二人の友人であった独立系映画監督のマーク・ハガードが『スタービースト』の脚本を評価し、出資者探しを買って出ることになった。オバノンは視覚的な側面からプレゼンテーションを行うために、『ダーク・スター』で知己であったロン・コッブにイラストを依頼する。コッブはこの時点ではまだ『スタービースト』を『ダーク・スター』のような低予算映画になるだろうと楽観視しており、何枚かのイラストを提供した[11]。商業的な映画に相応しいものとして、オバノンは思案をめぐらせ『エイリアン』というタイトルをひねり出した[14]。
 1976年、ハガードは「ブランディワイン・プロダクション」という会社と契約を成立させ、『エイリアン』の脚本は買い取られた。ブランディワインはゴードン・キャロル、デヴィット・ガイラー、そしてウォルター・ヒルの3人によって運営される制作会社であった[15][11]。ヒルは脚本の内容を酷評しながらも一部のシーンに可能性を見出し、他の二人と共に20世紀フォックスの製作主任であったアラン・ラッド・ジュニアにこの脚本を売り込む。スリラーに定評のあるヒルが売り込んだということでラッドは少しだけ興味を示したが、映画化決定の許可は下りなかった。ラッド自身はこの映画が作られる見込みはほぼないと考えていた[16]。
 しかし、1977年に同社配給の『スター・ウォーズ』やコロンビア映画の『未知との遭遇』が公開され、ヒットしたことで状況は一変した。SFは売れないB級という定説が覆され、一大ブームが到来した。そんな時、フォックスの手元に唯一あったSF作品の脚本が『エイリアン』であった。こうして同年10月31日[17]に、『エイリアン』の製作許可が降りた[16]。
プリプロダクション[編集]
 ヒルとガイラーが行ったのは脚本の手直しであった[11]。7名いたクルーは全員男性だったが、2名が女性に変更され、全員の名前が変更された。原案にあったシーンはほぼそのままであったが、台詞の口調を抑えたものにするといった変更がなされた。また、アッシュをアンドロイドにしたのも二人のアイディアである。リプリーにあたる役を女性にするよう提案したのはラッドであった[18]。改稿は8回にもおよんだ[19]。
これらの改変にオバノンは終生不満を漏らしたものの、視覚デザインコンサルタントとして映画に携わることはできた。またシャセットはエグゼクティブプロデューサーに任命された[20]。しかしラッドはオバノンを重要人物とみなさず、一時は映画のセットに立ち入ることすら許可しなかった。そのためオバノンは原案者でありながらこっそり現場に忍び込むこともあったという[21]。
 しかし肩書きがどうであれ、オバノンにとって一流のスタッフとの仕事がエキサイティングな経験であることは確かであった。1977年7月11日[17]、オバノンはギーガーに電話をかけ、新しい映画製作に携わっていることを伝え、要となる未知の生物のデザインを依頼した[22]。オバノンが1000ドルの小切手と共にギーガーに送った手紙には、まず人間に幼生を産み付ける第1形態、人間の体を突き破って現れる第2形態、そして成長した第3形態へと変化するアイディアが記されており、初期段階からエイリアンのアイディアは固まっていた[23]。
 監督は当初ヒルが自ら務める予定であったが、SF映画向きではないことを理由に辞退し、『ロング・ライダーズ』の監督を務めることになった。そこでブランディワインは監督の候補を捜し始める。ピーター・イェーツ、ロバート・アルドリッチ、ジャック・クレイトン、そしてリドリー・スコットの4名が候補に挙がった。イェーツは20世紀フォックスに推されていたが、彼は格下のB級映画とみなし断った他、アルドリッチもクレイトンも価値を見出さず監督就任を拒否した。なお、原案者であるオバノンは監督候補には入っていなかった[18]。
 その中でスコットは当時既にCM映像監督として成功を収め、自身の制作会社である「リドリー・スコット・アソシエーツ(RSA) 」を設立し活躍していたが、映画監督としては『デュエリスト/決闘者』を撮ったのみだった。同作で共同プロデューサーであったイヴォール・パウエルは熱心なSF愛好家でもあり、その撮影中スコットにSFコミック雑誌『メタル・ユルラン(ヘビーメタル)』を貸して読むよう薦めた。『2001年宇宙の旅』を除けばSFに関心はなかったスコットであったが、その世界観に魅了され特にジャン・ジローの『アルザック』を好んだ[24]。
 パウエルから「監督第2作目の作風が今後作る3作分の内容に影響を及ぼす」とアドバイスされたスコットは、次なる作品として『トリスタンとイゾルデ』を題材に選び、パラマウント映画の下で映画化の準備を進めていた[25]。彼の脳裏には『トリスタンとイゾルデ』の中で『メタル・ユルラン』の荒涼とした様式美溢れる世界観を実現させようという構想があった。だが、当時公開されたばかりの『スター・ウォーズ』を初週に鑑賞し衝撃を受ける。そこにはまさに彼が撮ろうとしていた映像表現が存在していた為であった。スコットは同作を絶賛しつつも、先を越されたことに強い挫折感を味わった[26]。
一方、カンヌ映画祭で『デュエリスト/決闘者』を観覧し、スコットの才能を評価した人物がいた。フォックス・ヨーロッパの社長サンディ・ライバーソンである。彼はフォックス内で使えそうな企画を探し、監督の定まっていない『エイリアン』の企画を発見、スコットの手元に送って監督してみないかと誘いをかける。『ヘビーメタル』のようなSFのデザインを表現したかったスコットにとってまさに格好の題材であること、さらに機能的で無駄のない粗筋や、地位による待遇の違いに嘆く労働階級の姿が描かれている点なども好印象であった。1978年2月[17]、ライバーソンの仲介でラッドと面接したスコットは正式に監督として契約を結んだ。当初組まれた予算は420万ドルに過ぎなかったが、スコットは自ら絵コンテを描いて会社と交渉し、850万ドルの予算を勝ち取った[27]。またパラマウントに対しては『トリスタンとイゾルデ』の企画から手を引くことを告げた