ペネロペ・クルスの抱きしめたい



 セレブが大好きで仕方がないという溌剌少女ディアナ。1965年にビートルズがスペイン公演を果たした日に宿泊先のレノンの部屋に忍び込みます。ベルボーイのサンティとディアナはここで偶然出会い、二人の間に恋の炎が燃え上がるのですが、スペイン国王/歌手/銀行家とセレブの飽くなき追っかけを続けるディアナにとって貧しいサンティとの結婚は選択肢にありません。奔放なディアナに振り回され、不倫関係を続ける気弱なサンティ。いつしか二人の間に30年もの月日が流れ…。
 ペネロペは映画の前半にしか出ません。ビートルズはディアナの好きなセレブの一部でしかありません。それでも日本ではタイトルにペネロペを押し出し、ビートルズの追っかけ物語であるかのごとく針小棒大な売り文句を付しています。人びとに誤った印象を与えようかとするこの「売らんかな」の態度はビートルズ・ファンの目には許しがたいものと映ることでしょう。ファンのお怒りはごもっとも。ビートルズ映画と思って見てしまった方々の心中を察します。
 ではこの映画は多くの日本人に宣伝の妙で売りつけるような底の浅い物語かというとさにあらず、です。実のところこれはなかなか底堅い大人の恋愛コメディなのです。お金と名声を持つ男を次々と30年に渡って追い続ける女と、妻へのうしろめたさをかかえながらもどうにも彼女を忘れられず「都合のいい男」を続ける男。原題は「恋はとっても体に毒」といいますが、抑えのきかない恋に翻弄される中年男女の心の機微をうがつ、そんな作品なのです。
 レノンの訃報に接する二人の姿に特に心打たれる思いがしました。ディアナとサンティはこの日、二人が初めて会ったホテルで当時の想い出にふけるのですが、二人の間に横たわる積年の想い出が見る側の眼前に一気に溢れ出し、男女の切ない思いにほろりとさせられました。
 哀しく可笑しい大人向けの物語として、十分堪能できる一本です。 (Amazonのレビューより)