九州電力原子力発電所の安全対策の紹介


 川内原子力発電所(せんだいげんしりょくはつでんしょ)は、鹿児島県薩摩川内市久見崎町にある九州電力の加圧水型の原子力発電所である。川内原発(せんだいげんぱつ)とも呼称される。本記事では、以下「川内原発」と表記する。

川内原発は、九州電力としては玄海原子力発電所に次ぐ2か所目の原子力発電所である。2011年に東日本大震災後の最初の定期点検で1・2号機が運転停止した後長く稼働されなかったが、2013年7月に国が定めた新規制基準に基づく審査を経て、2015年8月と9月にそれぞれ再稼働した。新規制基準に基づく再稼動は日本では初めてである[1]。再稼働に前後して、川内原発周辺の住民らによって原発の運転差し止めを求める訴訟と仮処分申し立てが起こされ、仮処分については2016年4月6日に福岡高等裁判所宮崎支部にて申し立て却下の判決が出た。(後述)

2016年7月10日、鹿児島知事選で原発をいったん停止し再検査をすることを公約とした三反園訓が現職の伊藤祐一郎を破り初当選し、九州電力に対し即時停止を二度要請したが、その後、10月6日より定期検査に入った1号機に対し、自らに原発を稼働させるか稼働させないかの権限はないとした上で、再稼働を容認する姿勢に転じ[2][3]、1号機は同年12月8日に再び運転を再開した[4]。

九州電力は2016年4月現在、3号機の増設に向けた手続きを行っている[5]。


発電設備[編集]
番号原子炉形式定格電気出力燃料・装荷量運転開始日現況
1号機加圧水型軽水炉(PWR)89万kW低濃縮二酸化ウラン・約72トン1984年(昭和59年)7月4日2016年10月6日より定期点検中
2号機加圧水型軽水炉(PWR)89万kW低濃縮二酸化ウラン・約72トン1985年(昭和60年)11月28日2015年10月15日より稼働再開
3号機改良型加圧水型軽水炉(APWR)159万kW低濃縮二酸化ウラン2019年度(平成31年度)予定計画中



 年表[編集]
1964年(昭和39年)12月 - 鹿児島県川内市(当時)市議会にて原子力発電所の誘致を決議[6]。
1970年(昭和45年)4月 - 1号機、建設計画発表[6]。
1977年(昭和52年)3月 - 2号機、建設計画発表[6]。
1977年(昭和52年)12月 - 1号機、原子炉設置許可[6]。
1979年(昭和54年)1月 - 1号機、建設工事開始[6]。
1980年(昭和55年)12月 - 2号機、原子炉設置変更許可[6]。
1981年(昭和56年)5月 - 2号機、建設工事開始[6]。
1982年(昭和57年)6月 - 鹿児島県、川内市、九州電力との間で安全協定を締結[6][7][8]。
1983年(昭和58年)8月 - 1号機、初臨界[6]。
1984年(昭和59年)7月 - 1号機、営業運転開始[6]。
1985年(昭和60年)3月 - 2号機、初臨界[6]。
1985年(昭和60年)11月 - 2号機、営業運転開始[6]。
2011年(平成23年)1月12日 - 3号機増設のための原子炉設置変更許可申請[9]
2011年(平成23年)5月6日 - 1号機、東日本大震災後最初となる定期点検開始[10]。
2011年(平成23年)7月14日 - 1号機、定期点検後の発電再開の延期を発表[11]。
2011年(平成23年)7月22日 - 1号機、原子力安全・保安院からの指示による「原子力発電所の安全性に関する総合的評価(ストレステスト)」を開始[12]。
2011年(平成23年)8月22日 - 1・2号機、原子力安全・保安院からの指示により「耐震安全性評価報告書」の再点検を開始し、同年10月31日に結果を報告[13]
2011年(平成23年)8月30日 - 2号機、東日本大震災後最初となる定期点検開始[14]。
2011年(平成23年)10月7日 - 2号機、原子力安全・保安院からの指示による「原子力発電所の安全性に関する総合的評価(ストレステスト)」を開始[15]。
2011年(平成23年)11月23日 - 2号機、定期点検後の発電再開の延期を発表[16]。
2012年(平成24年)12月27日 - 鹿児島県の立ち会いの元で、川内原発周辺の6市町(鹿児島市、出水市、日置市、姶良市、さつま町、長島町)と九州電力が「川内原子力発電所に係る原子力防災に関する協定書」を締結[7][17]。
2015年(平成27年)8月14日 - 1号機、発電を再開[1]。同年8月21日、復水ポンプ付近でトラブルが発生し出力上昇の予定を延期して調整[18][19]、同年9月10日に通常運転に復帰[20]。
2015年(平成27年)9月1日 - 2号機、発電を再開。同年11月17日に通常運転に復帰[21]。




 2012年5月30日、鹿児島地裁にて、南九州3県(鹿児島県・宮崎県・熊本県)の住民ら1114人によって九州電力と国に対し川内原発の運転停止を求める訴訟(操業差止訴訟)が起こされた。原告側は、福島第一原子力発電所事故によって原発そのものが危険であることが明確になったこと、川内原発近くの海底に活断層があり地震が事故の誘因となる危険があることなどから、定期点検後の運転再開を延期している川内原発1・2号機を今後も操業しないように訴えた[33][34][35][36]。2012年10月16日の第1回口頭弁論で九州電力側は、川内原発は地震や津波に対する十分な対策を講じて安全性を確保しており福島第一原発事故のような事態に至る危険性はない旨を主張した[37]。2016年4月現在係争中である。

 2014年5月30日には、鹿児島地裁にて九州電力に対し川内原発の運転差し止めを求める仮処分(再稼働差止仮処分)の申し立てが鹿児島県・熊本県の住民ら23人によってなされた。原告側は、川内原発の耐震安全性が不十分であり大地震によって放射能漏れを伴う過酷事故に至りかねないと訴えた。また、川内原発は再稼働のための審査が進められており、再稼働となれば周辺住民の安全が脅かされかねないとして仮処分申し立てに踏み切ったとした[38]。また原告側は、近隣の火山で大規模な噴火が起きた場合も川内原発で過酷事故を引き起きかねないと主張した。これに対し九州電力側は、川内原発ではより強い地震にも対応する安全対策を施したことや、原発が運用されている間に巨大噴火が起こる可能性が低いことなどを主張した[39]。2015年4月22日に鹿児島地裁は、原子力規制委員会による新規制基準の内容や、川内原発が新基準に適合したとする判断に不合理はないとして、この申し立てを却下した[40][41]。原告の住民ら12人は福岡高裁宮崎支部に即時抗告を行った[42]が、2016年4月6日、高裁もこの申し立てを却下した[43][44][45][46]。川内原発の安全性において問題となる火山噴火のリスクについて、福岡高裁宮崎支部・西川知一郎裁判長は、原子力規制委員会が審査において原発に影響を与える規模の大噴火を事前に予測できることが前提となっているのが不合理だと指摘したものの、こうした規模の噴火は頻度が低く、社会通念上そのリスクまで考慮することは求められていないという趣旨の意見を述べた。また、地震のリスクに関する安全性についても原子力規制委員会の審査に問題ないとの判断を示した[





 発電設備[編集]
番号原子炉形式定格電気出力定格熱出力燃料
装荷量燃料集合体数運転開始日建設費現況
1号機加圧水型軽水炉
(PWR)55.9万kW165.0万kW低濃縮二酸化ウラン
約48トン121体1975年(昭和50年)10月15日545億円廃炉(2015年4月27日[1])
2号機加圧水型軽水炉
(PWR)55.9万kW165.0万kW低濃縮二酸化ウラン
約48トン121体1981年(昭和56年)3月30日1236億円定期点検中
3号機加圧水型軽水炉
(PWR)118.0万kW342.3万kW低濃縮二酸化ウラン・MOX燃料
約89トン193体1994年(平成6年)3月18日3993億円定期点検中
4号機加圧水型軽水炉
(PWR)118.0万kW342.3万kW低濃縮二酸化ウラン
約89トン193体1997年(平成9年)7月25日3244億円定期点検中
3号機は、2009年(平成21年)11月5日よりプルサーマル試運転。同年12月2日より営業運転を開始。
MOX燃料費は、1回目18体10.7トンで139億6400万円。2回目20体13トンで150億8200万円[要出典]。



 月11日に福島第一原子力発電所事故が発生し、原発の安全性の問題が全国で注目を集めるようになった。国の原子力安全・保安院は約3週間後の3月末に、緊急安全対策を各電力会社に指示した[22]。経済産業省はこの対策が講じられたことが確認できれば再稼働は可能との見解で、海江田万里経済産業大臣は6月に原発の安全宣言を出し、定期検査の予定の作業が終了した玄海原発の再稼働のために佐賀県の古川康知事を訪ねた[22]。

 しかし、全国の市民からの反対の他、事故の検証が未実施で安全基準が示されていないとして、13基の商用原発を抱える福井県などからも時期尚早との声が上がった[22]。そこで、政府(菅政権)は、ストレステストを導入し、1次評価で安全性を確認してから再稼働の是非を判断することとなった[22]。

 また、運転再開への「地元住民の疑問や不安を解消するために」経済産業省は「佐賀県民向け説明会」を開催した。この「説明会」は、「県民」と学者、経済産業省の担当者が、佐賀市にあるケーブルテレビのぶんぶんテレビのスタジオで公開質疑をするという内容であったが、開催前に九州電力担当者との会談で古川康知事が「経済界には再稼働を容認する意見があるが、表に出ない」「こうした機会を利用して声を出すことも必要だ」と発言し、担当者が「再開賛成の意見を増やすことが必要」との認識で一致した後、九州電力本社が関係会社の社員らに、番組に対して再開賛成のメールを出すよう指示した世論偽装工作事件(サクラ)が起こされた。

 「九州電力やらせメール事件」も参照
 このやらせメール事件は国会質疑によって重大問題とみなされるようになり、第三者委員会が会社ぐるみでの指示があった事件だということを認める最終報告書を9月30日に提出した。これを受けて、海江田大臣の後継の枝野幸男経済産業大臣は、九州電力の姿勢を批判し、原発再稼働への障害になるとの認識を示した。

 しかし、九州電力は再稼働手続きを進め、2011年12月14日に2号機のストレステストの結果を原子力安全・保安院に提出した。2012年5月4日の時点で、2号機は保安院によるストレステスト1次評価の審査中であり、他の号機については九州電力はストレステストを提出していない[22]。

 2,3号機は福島原発事故後、日本国内の原発再稼働の一番手と目されていた[23]が、現時点では再稼働予定は未定である。2012年夏は九州電力管内の玄海原発と川内原発は稼働しない予定だが、節電を実施すれば猛暑でも需要を超える供給力が確保できると九州電力は計画を立てている[24]。しかし、玄海町の岸本英雄町長は現在でも再稼働の必要性を強調している[23]。

 また東京新聞は、太平洋側でなく運転年数が比較的少なく加圧水型原子炉である3,4号機は、この条件を満たす他の原発とともに、政府が再稼働の候補にしそうである、と報じている[25]。しかし、九州電力は、免震施設も、事故の時にベントを迫られた際に放射性物質の放出を減少させるためのフィルターも「設置時期は未定」といった回答しかしていない[25]。