野性の哮

 天変地異が起きた後に為ってから、野性動物が恰も、事前に異変を予知して居たかの様に何時も報道されます。インド洋大津波の直前に、タイでは虎を見ても動じ無い巨象が、何かに怯えて哮び、結わえて有った鎖を切って高台まで逃げたら急に安堵して、暫くして大津波が押し寄せたとか。結果として多くの人の命を救った事に成った。確かに野性動物の被害が少ない事からも、其の事が頷けます。又、インド洋の一部の地域の、現代文明から隔離され、槍や弓矢で動物を狩る、石器時代同様の生活を続ける少数部族の殆どが難を逃れて居たとか。彼らも又、動物や波風の変化で異変を感じる能力が有ったのでしょう。 阪神大震災の後にも色々と報道されて居ます。水族館の海豚が乱れたり、鳶や烏が姿を消したり、野鳥が塒を変えたり、何時も獲れる魚が獲れず、変な魚が網に掛かったり。
 関東大震災の後も、鯰が跳ねたり、鰯が川を溯た等沢山の事例が報告されて居ます。もっと古い文献も繙いて観ると面白い発見が在るかも知れません。野性動物達の此れらの現象には目撃例の多さからも有る程度の真実性が有るとも思われます。中国では此れ等の事を利用して、地震予知に役立てようともされて居ます。生き延びる為に日頃から、野生動物の行動の変化には注意を払って置きましょう。しかし、野性動物が変な行動を取ったからと言って、必ず天変地異が起きるとも限ら無いのも又事実です。言い伝えの中には、烏が啼くと不吉な事が起きる等、迷信に近い物も有ります。何処かの会社の様に、火災報知機の誤報が続くと人は警報に鈍感に為ってしまいます様に、外れると信用出来無くも為ます。そして天変地異が起きる度に後から報告され、古い文献が引用されます。
 子供の頃、沈む船や火事の起こる家からは鼠が消えると言う話を聞かされて、不思議で成りませんでした、天井裏で鼠と鼬が運動会をして居る音を聞いて、安心して眠た経験も在ります。野性動物は何故異変を予知出来るのでしょうか。天変地異は何拾年に一度しか起こら無い事からも、親に教わったり、体験に依る学習に依って得た物で無い事は確かです。恐らくは本能的な物なのでしょう。長い年月を掛けての進化の過程で、遺伝子其の物に書き込まれてしまって居るのでしょう。人が蜘蛛や蛇を本能的に嫌うのと似て居ます。 現代の穏やかな地球からは想像も出来無い、種の存亡に関わる様な天変地異が過去に幾度となく有った事が推測出来ます。今、我々が生きて居る事自体が生命の奇跡です。
子供の頃、家で一人で留守番をして居た時、裏口の障子がスーと少しだけ開いて、吃驚した体験が在りました。野良猫が家の中の様子を窺って居たのでした。飼猫では決して垣間見せ無い野性の眼差し。其の後、何匹もの猫を飼いましたが、遂に障子を自分で開ける猫には出会えませんでした。玄関の障子を開けてくれと態々呼びに来る猫は居ましたが。野良猫の方が飼猫より賢いので有る。人間に頼らずに子育てをする事が、如何に厳しいかが推測出来ます。英知の限りを尽くさ無いと、生きては行け無いので有る。親や教育者が居て手取り足取り教えて呉れる、人間社会と違って、全部自分で考えて生きて行かなければ成らないので有る。其れでも覚えられ無い人の子も居ますが。野に出でれば野生の感性が研ぎ澄まされるのも納得出来ます。森の中では、静か過ぎて耳が変に成った体験も在りますし。淀川の河原で誰一人人が居無い事自体に恐怖に感じた事も在りました。昔は犬も大地に耳を当てて寝て居て、番犬としての役目を担って居ました。便利過ぎる機器に満ち溢れた現代文明の中では野性の感性も鈍ってしまいます。
 子供の頃、未来の事が分かる不思議な体験を何度かした人も、大人に為ると能力も消え失せてしまうみたいです。毎日同じ仕事ばかりをして居ると予定表を見れば明日の自分が自然に見えてしまいますが其れは予知とは言えません。正夢、虫の知らせ等、五感以外にもう一つの第六の感覚が在りそうにも思えますが、生活の豊かさが第六感の感覚を麻痺させるのでしょう。宗教家が何日も所有煩悩を絶って苦行を続け、己の生命の存亡に関わって来る時、暫しの間垣間見せる不思議な世界が有るそうです。豊かさの中に溺れたて居ながら心が満たされ無い現代人の不幸が存在します。恰も、水の中に居て、渇を哮ぶが如し 子供の頃、武士は寝る時は利き腕を下にして寝るとか聞かされました、万が一の時に、利き腕だ無事なら助かる可能性も大いに在ります。最近夫に荷物を持たせて平気な妻が多く為りましたが、万が一の時に咄嗟に助けて貰え無い可能性も有りますよ。人には野性動物の様に異変の予知能力が無くても、万が一の時に備える事は出来ます。何処に居ても非常口の在りか等は確認して置きましょう、其れ丈でも助かる可能性も大いに有ります。
人も偶には死ぬ夢は見るものです、本能が夢の中で何かを教えて居るのかも知れません。

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