阿弥陀籤の女

 或る同僚の女子社員が結婚退職する事とあい成って其の送別会の席で、後から入って来た女子社員が先に幸せな結婚をして退職して行くのを見て女は焦って居った。雪枝は御酒さえ入ら無ければ美人な淑女で有るが酔うと酒癖が悪く酒乱で管を巻く悪癖が有った。御酒を飲ませるのは厳禁で有った。
「私と一夜を共にしたくて争う気持ちも分からぬでは無いが、選りに選って事も有ろうに阿弥陀籤で選び居るとは、呆れ果てた男共じゃ、罰当たりめ共が」男達は叱られてしもうた。
「何言って居るの、貴方に御酒を飲ませた悪い人の尻拭いをさせられて居るのじゃが」困り果てる幸子。「阿弥陀籤で私の人生が決まってしまうのか、夫婦に成らぬといけないのか」何やら誤解をして居った。「雪枝様たら、大層な、貴方を御家迄タクシーで送って呉れる人を決めて居る丈じゃが」
「鈴木君か、貴方か阿弥陀籤で私を射止めた幸せ者は、御世話を掛けます」女嫌いの真面目な男は。  「雪枝様は御トイレは済まされましたか、もう真夜中で何処も閉まって居るので帰る途中でしたく成ると困りますよ」「貴方は私の尿の心配迄して呉れるのか、気に入ったぞ、夫婦に成って上げる。今日からもう夫婦じゃ」幸恵は皆の前で言ってしまったので有る。困り果てる男。               「鈴木君の奥様、忘れ物は無いですかね」同僚は呆れ果ててからかって居った。
 暫くしてタクシーが来て二人は帰って男共はヤット安堵したので有ったが。不幸な男が一人丈居った。女はタクシーの中でも管を巻き続け男を困らせた。雪枝は酩酊して居り自分の今の住所も前に住んで居った住所と交錯し記憶が定かで無い。「雪枝様たら御自分の家の住所も忘れてしまわれたのですか」男は彼方此方行かされ、タクシーのメーターが上がる度に青く成った。言わん事じゃ無い、やがて女は便所に行きたいと言い出し前を押さえてモジモジしだした、男は仕方無しに自宅に連れて帰った。
 朝に成って、女は普段の自分に戻って居って自分の家の如くに御飯を炊き、御味噌汁を作って居った。 男は二日酔いで頭が割れそうで有った。
「雪枝様は何故此処に居る」「私も其れが聞きたいわ。阿弥陀籤で夫婦に成ってしまったのでは無かったのか」「あそうか、思い出したぞ」「雪枝様が小便がしたいと言い出したから此処に居る丈の話じゃ」
「今日は土曜日で会社も休みで良かった、ユックリしなさってから帰られれば良い」
「貴方は病気か、小便をしたがる女は誰でも家に泊めるのか、これの阿呆たれ」突然拳骨が頭に飛んで来た。「貴方は余程私の尿に興味が有りそうじゃのう、私と同じに変態の気が有るのか」
「さっき、貴方が以前に好きだった幸子様から電話が有って、うちがうっかり出てしまって、此処に居る事が分かってしまったわ」「どないしましょ、こないな事に成ってしまって、もう恥ずかしくて会社には行け無いわよ、其の内私が此処に泊まった事が皆に知れ渡ってしまうわ」
 女は夕暮れに成って夕食を作り出した、今宵も泊まって行く心算らしい。男も男で帰れとは言わ無かったので有る。何やら可笑しい事に成ってしもうた。
「貴方は未だ阿弥陀籤に当った事を後悔して居る様じゃな、世の中の難儀を阿弥陀籤で解決しょうとする男共を見返して遣ろうとは思わぬのか、夫婦に成って子供を授かって幸せに成って見返して遣ろうぞ。私は阿弥陀籤で人の人生が決められてしまうのには我慢が出来ぬが、私は我が子依り貴方が大事じゃ、貴方が望まぬなら子供は要らぬが、二人仲良くしようぞ」「我が子を望まぬ夫等此の世に居ろうか」女は素面に成っても未だ何やら勘違いして居った。
「御免、おならを放いてしもうた、尿もしたく成ってしもうた」女は相変わらず下品で有った。下品なのは御酒のせいとばっかり思って居ったがそうでは無かったので有る。
 男が風呂に入って居ると女が「御背中を流しますわ」と言って入って来た。「其方も入らぬか」「良いんですか」間違いが起きる事を女は期待して負ったが現実は大した事は起こら無い物で有った。女はやや子が欲しく成り、「ややこが欲しい」と言って男の背中に抱き付いた拍子に尿がでてしもうた。
「御免なさい、はしたない事をしてしまいました」「雪枝様たらはしたない」と善男も言い乍、はしたない事をしてしもうたのである。女は泣き出してしもうた。「悪かった、雪枝様がはしたない事をしてしまうからや、誤るよって泣かんといて」「うち嬉しいねん」二人は御風呂で夫婦に成ってしもうたので有る夜が更けっても女は帰ろうとせず、布団を敷き出した。
 朝に成って目が覚めると女が傍で寝て居った。
「雪枝さんたらはしたない、腋毛は剃ったりしないのか」「何の為に」「御乳を触らせて上げる」「ええ触っても打たりしないのか」「何時まで触って居るのじゃ」
「尿がしたく成ったわ」と言って起きてしもうた。
 阿弥陀籤に当ったばっかしに大変な事に成ってしもうた。夕食の用意の為に近くの市場に女は買い物に出掛けて居る間に祖母が又又見合い写真を持って遣ってきてしもうた。何やら家が片付いて居った、何やら女の匂いがするので有った。
「女でも出来たのか、女嫌いは止めてしまったのか」祖母は良家の御嬢様風の良き娘の縁談を持って来たので有ったが。暫くした女は帰って来る成り便所に駆け込んだ。何やら少し失禁してしまい廊下を点々と濡らしてしまったので有る、思わぬ痴態を善男の祖母の前で曝け出してしまったので有る。
「何じゃ彼の尻癖の悪い女は、説明して見い」「説明も出来んのか、結婚する心算も無いのに一緒に暮らして居るのか」男は散々叱られてしもうた。「わての目の黒い内は此んなふしだらは許さん、観念して結婚してしまえ。今度来る時迄にけじめを付けられ」祖母は呆れ返り、怒って帰ってしもうた。
 又夜が来て、男は女と相談した。女は強かで有った。
「私達はもう夫婦に成ってしもうたのよ、子供が出来ても可笑しく無いのよ」もう夫婦に成った心算で居った。
 男は台所で食事の片付けをする健気な女が好きに成ってしもうた。
「雪枝様」「言わ無くても分かって居るわよ」「うちと寝たくても結婚は出来無いんでしょ」哀れな雪枝 男は女を後ろから抱すくめてしまった。
「キスして下さる、尿をチビル程気持ちの良い事をして見たい」女は甘えた。
 女は人に言え無い恥ずかしい性癖が有った。排尿を我慢する事に快感を感じる性癖が有ったので有る。「尿も自由に出来ぬ生活は嫌じゃ、嫌じゃ」と駄々を捏ね。我慢して居ったので有る。
 接吻された拍子に我慢をして居った大量の尿が出てしまったから恥ずかしい事に成った。恥ずかしさの余り放心状態の雪枝を善男は又犯してしまったので有る。
 月曜日の朝に成って、二人は時間をずらして何食わぬ顔で出社したが女のそこはかと幸せそうな顔に、同僚にばれてしもうた。 其の内女の御腹が膨らんで来てしもうた。やや子が出来たので有る。男は結婚せざるを得なく成り結婚する事に成った。女は結婚退職をする事に成った。同僚は送別会をする事にしたが何故か御酒抜きの茶話会で食堂でする事にあい成った。経費節減で有った。女は玉の様な男の子を産み落とし。二人は誰もが羨む、幸せな夫婦と成った。誠に目出度し、目出度し。


            2006−02−19−106−01−OSAKA



                     HOME
                  −−戻る 次へ++