御下がり妻

 昔、昔、或る所にそれわそれわ精力絶倫の殿様が居ったそうな。五十路を過ぎても、気に入った心若い生娘を見付けては、側室に召し出さして居ったので有る。真に好色な殿様で有った。娘達も一族の栄華を夢見て喜んで側室に成ったので有る。如何に才色兼備の佳人の側室も歳には勝て無んだので有る。其の様な側室を殿様は手柄を上げた家臣に手柄の褒美にと側室を嫁御に下げ渡したので有る。家臣は断る事も離縁する事も出来ず苦慮して居ったので有る。
 或る秋の天気が日本晴れの良き狩日和の日、殿様は馬に載り家臣を引き連れて雉狩を楽しんで居った。遅い昼食も済ませた其の時で有る、山の様に大きい大猪が殿様の向かって突進して来たので有った。其の時日頃は梲の上がらぬ男が捨て身で飛び出し猪を仕留めてしもうた。殿様の命を救うたので有る。殿様は気を良くし、男に褒美にと側室を下げ渡したので有る。断る分けにも行かず、困った事にあい成った。
 何日か経って一人の女が共を従え籠に載って遣って来てしもうた。男は慌てて親戚を呼び集めて俄婚礼を挙げた。初夜の床入りの儀式の前に嫁御は改まって正座しとんでもない事を言い出した。
「今宵から六月の間、身体を清めとう御座居ます、夜の御勤めは御辞退願い奉りとう御座居ます」
「何故じゃ」
「妾は最早処女では御座りませぬ・・・」「分かった皆迄申されますな」
 しかしで有る。元気有り余った男女が一つ屋根の下で寝起きし間違いが起きぬ筈も無かった。外目には誰もが溜息を吐く程の美人で働き者の嫁御では有ったが、其の下品な事と言ったら、主人の前で平気で鼻汁はかむは、平気でおならは放は、平気で朝顔に小用は足すは・・・。
「御前様、何処へ行きやる」「憚りじゃ」「妾も行きたく成り申した」と尽かさず言っては付いて来てしもうて、放乍話たがるので有った。下げ渡された理由が分かってしまったので有った。しかし、男はそんな下品な嫁御が好きで好きで堪ら無く成ってしもうた。
 一月程経った秋も深まった或る日、男はついウッカリ嫁御の御尻を触ってしもうた。
「御前様は今何をしやったんじゃ、真坂御尻を触り居ったのでは有るまいのう」「其方は妾に気でも有るのか、もう我慢が出来ん様に成ってしもうたんか」「この阿呆たれ、約束も守れん間抜けとは思うてもみなんだわ、呆け」平手が行成頬に飛んで来た。
 二月程経った火燵が恋しく成る寒い或る日、男はついウッカリ嫁御の御乳を触ってしもうた。
「御前様は今何をしやったんじゃ、真坂御乳を触り居ったのでは有るまいのう」「其方は妾に気でも有るのか、もう我慢が出来ん様に成ってしもうたんか」「この阿呆たれ、約束も守れん間抜けとは思うてもみなんだわ、呆け」拳骨が行成頭に飛んで来た。
 三月程経った御正月に御屠蘇気分で、男はついウッカリ嫁御の前を触ってしもうた。
「御前様は今何をしやったんじゃ、真坂おそそを触り居ったのでは有るまいのう」「其方は妾に気でも有るのか、もう我慢が出来ん様に成ってしもうたんか」「この阿呆たれ、約束も守れん間抜けとは思うてもみなんだわ、呆け」行成足で尻を蹴られてしもうた。
 四月程経った雪の舞う寒くて憚りに行くのを躊躇っう程の或る日、男はついウッカリ嫁御に口付をしてしもうた。
「御前様は今何をしやったんじゃ、真坂接吻をしよったのでは有るまいのう」「其方は妾に気でも有るのか、もう我慢が出来ん様に成ってしもうたんか」「この阿呆たれ、約束も守れん間抜けとは思うてもみなんだわ、呆け」座布団で行成頭を思いっ切り殴られてしもうた。
 五月程経った春も近い或る日、男はついウッカリ火燵で転寝の嫁御の着物の裾に手を突っ込むんでしもうた。
「御前様は今何をしやったんじゃ、真坂恥ずかしくて言えん様な事をしよったのでは有るまいのう」「其方は妾に気でも有るのか、もう我慢が出来ん様に成ってしもうたんか」「この阿呆たれ、約束も守れん間抜けとは思うてもみなんだわ、呆け」行成馬乗りになられ首を絞められてしまった。誠に元気な嫁御で有った。
 満願の日を明日に向かえ男は到頭我慢が出来無く成ってしもうた。
「如何しやた、もう我慢が出来ぬのか、明日迄辛抱が出来んのか、もう困った人じゃ、まあ良い、今日迄良く我慢しょった、褒美じゃ、一日位負けて遣わす、蒲団を敷くよって一寸待たれ、これ、蒲団を敷く間も我慢が出来ぬと言うのんか、帯びを解く間も我慢が出来ぬのか、呆れ果てた主人じゃ、仕方が無いのう妾は先程から催いて居る、小用を足す間暫し待たれ、これ何をする、小用の間の我慢が出来ぬのと言うのか。男は湯殿へ女を連れて行き犯してしまったので有る。男が思いっきり女の膣に射精した時女も今まで感じた事の無い強烈な快感を感じた拍子に我慢して居ったものが迸り出てしまった。嫁御の着物はしとど濡れてしもうた。
「阿呆、呆け、間抜け、粕糟、何て事をしょったんじゃ、命を張って殿様を救った男のする事とは思えぬが、妾の様な御古を断る事も叶わずさぞかし不満で有たのか」散々叱られてしもうた。
 六月が過ぎ二人は初夜を迎え、真の夫婦に成ったが、嫁御の下品な処は相変らずで有った。憚りも扉を閉め様と為る気も無く、時には平気で朝顔で小用を足したりしよったので有る。主人が湯殿に入って居ると直ぐに入って来て、前を隠す気も無く、平気で恥ずかしい処を洗ったりするので有った。
「其方は病気か、そんな事ではやや子等出来んぞ」「御前様も変わって居るのう、為てはいけ無いと言えあれ程は為たがるし、見ては成らぬと言えばあれ程見たがって置き乍、夫婦に成れたら何もせぬのか」
 二人は子作りに励んだがやや子は出来無んだ。気だるい様な暑い夏の日の午後、二人は揃って佐太神宮に子宝祈願に詣でた。神様は神輿に載って渡御の最中で有った。境内は閑散として居った。祭り衣装を着た青者衆が時たま催太鼓を打って居った。二人は子宝を授かる様に神殿で拝んで居った。
「私達は夫婦は一体此処で何をして居るので有ろうか、神様は御旅所で此処には居らぬと言うのに」
「神様は総てを御見通しぞ、御旅所迄の隔たり等問題では無いぞ」「人の思い付きそうな屁理屈やわね」「其方も良う辛抱し遣った、妾の様な殿様の御下がり妻を断る分けにも、離縁為る分けにも行かず、難儀を為たで有ろうに。今日は褒美じゃ、其方の願いを叶えて遣わす。妾の尿垂れが見たくは無いのんか、おそそを弄りたくは無いのんか」「何て端無い事を神様の前で言い出し居るか、恥ずかしくは無いのんか」「何でもさして上げる」「如何しやった、気分でも悪く成ったのか」
「困った事に急に憚りに行きたく成ってしまいましたわ」「私に遠慮は要らぬ、神社の憚りを借りれば良いがな」「足が痛くてしゃがめぬ、中腰で両端を汚しては願い等叶わぬぞ」女は辛抱する事にしたが家迄帰る途中に到頭我慢が出来無く成ってしもうた。
「御前様、人が来ぬか見張ってたもれ」御内儀は行き成り御尻を捲って長々と馬の様に小用を遣り出した「これ、そんなに見詰めるで無い、恥ずかしいではないか」「其方にも羞恥心が有ったのか」
「御免、おならも出てしもうた」恥ずかしがる御内儀はそこはかとなく色気が有った。
 主人は家に着くなり御内儀を寝間に誘った。
「もう辛抱が出来ぬのか、未だ日は暮れては居らぬと言うのに端無い、妾に蒲団迄敷かせるのか」呆れる御内儀。
「これ、着物が皺に成るでは無いか」帯びを解き、着物を脱ぐ間の辛抱も出来無い主人。主人は端無い事をしてしもうた。
「阿呆、呆け、間抜け、糟、何と言う端無い事迄しよった」又、叱られてしもうた。
 暫くして、御内儀の襟子は子宝を授かった、佐太神社に祈願した御蔭で有った。二人で詣でた甲斐が有った。やがて襟子は玉の様な男の子を産み落とした。襟子は下げ渡しの嫁では有ったが余り有る物を主人の五郎は手に入れたので有った。共に白髪に成る迄長生きし、仲睦まじいく元気で有った。




            2006−04−16−117−01−OSAKA



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