蓮葉の玉水

 勉と葉子は幼馴染でも有り、学生時代からの友達でも有った。勉は勉強が下手で学問に行き詰まり、悩んで居った。大学の卒業論文も一向に手付かずで有った。何やら卒業も危うく成って来た。既に一年留年して居ったので有る。勉は葉子に相談し何とか成らぬ物かと。夜遅くまで議論し卒業論文もようやく纏り掛けた。しかしで有る。葉子は勉と服の儘の雑魚寝で一夜を共にした丈なのに、何を勘違いしたのか夫婦に成った様な気に成ってしまい居ついてしまった。子供が出来たら夫婦に成ろうと言う暗黙の了解が有ったので有る。勉は葉子の御蔭で大学をやっと卒業出来、会社にも就職出来。直ぐに子が出来る物と二人は思って居ったが何時まで経っても子が出来無んだ。年月が空しく流れ、夫婦でも無い赤の他人の女が自分の助言が無ければ落第して居たのを鼻に掛け、家の中で遣りたい放題の事をして居ったので有る。
 春も終わりの頃、葉子は何を思ったのか牡丹餅を作って居った、何やら実家に持って行きたいらしい。「あんたも手伝い」春は花粉症の季節でも有る、風邪気味でも有り鼻水が落ちそうに成った。
「鼻水が落ちそう、あんたかんで頂戴」何やら汚い話で有る。夫婦でも無い女の鼻までかまねば成ら無いかったので有った。
「後で一緒に御風呂を入って上げるよって楽しみにな」御風呂に一緒に入るのが余程楽しいらしい。
 勉が風呂に入って居ると、葉子は食事の片付けに手間取り、慌てて着物を脱ぎ捨て風呂の中に飛び込んで来た。
「なああんた、何でうちらにやや子が出来へんねんやろ、一度、佐太天神宮に御参りに行かへん」
「これ、うちのおそそばかりそんなに見つめるで無い、恥ずかしいではないか」
 と言い乍も前を隠す気等無いので有る。
「何時も背中を流してあげて居るがたまにはうちの背中を流そうと言う気には成らぬか」催促した、勉は言われたら何でもするので有ったが、何を勘違いしたのか女の背中に小便を引っ掛けてしまったので有る「あ、汚い、まあ、恥ずかしい」女は自分が御粗相でもしたかのように恥ずかしがり、両手で口を押さえて「今何をしよったんじゃ」呆れ返ってしまった。
「何を考えて生きて居るのじゃ、あんたみたいなはしたない事をしよる下品な男と私は一生暮らさねば成らぬのか」嘆く女。                                      「うちの御蔭で卒業出来た恩を忘れてこんなはしたない事をしよるのか、こんな悪さばかりして居るから何時迄経ってもやや子が授からぬのじゃ、いいかげんにせ」女は足で男の顔をてんごするので有った。
「賞与が待ち遠しいわね、うちの台所は火の車やねんえ分かって居るか」女は湯船の水面にタオルを広げあぶくの照る照る坊主を作ったりして弄び乍ボーナスを狙って居った。
 夫婦でも無い二人が一つ布団で安心しきって寝て居ったので有る。平気で屁を放いたりするので有った 勉は夢現で女の乳房を弄っでしまって居る自分に気が付いた。又拳骨が飛んで来るかと思って居ったら「これ、何時まで御乳を触って居るのじゃ、まるで子供みたいじゃのう、他にする事が無いのか」
 気が狂う程の暑い猛暑の真夏が遣って来た。蓮の花のも盛りが過ぎて咲き乱れて居った。時ならぬ驟雨も良い天気で有った。蓮の葉の上の玉水も水晶の様に輝いて躍って居った。
 気だるい様な休日の午後で有った。
「なああ、あんた、うち盛りが憑いてしまって居るねん、催してしまって居るねん」何やら猥らにもじもじとして見せるので有った。勉が座敷で昼ねをして居ると黒猫が黒豹の様に悠然と座敷の上を闊歩し野生の本性を内部に秘めて近かづいて来て、片足を御腹に載せて甘えて鳴いて載りたがっり、寝て居った。 「困った奥方じゃ」勉は何を勘違いしたのか御腹の上の猫を降ろし便所に連れて行った。
「子供みたいにさせて呉れるのか」「座敷で尿垂れされては困るでな」「まあ、恥ずかしい」女は余程恥ずかしいのか両手で顔を覆ってしまった。女は子供に成ってしまったので有る。
 夏祭りで有った。女は着物を着、割烹着を着て散らし寿司を作って居った。「あんたも手伝い」
「鼻水が落ちそう、あんた鼻をかんで」又汚い話で有る。
「今日は御祭りやで、御寿司を頂いたら、佐太天神宮に御参りに行こな」
「あんた、頂いた麦酒が有るねん、頂くか」「御前は飲まぬのか」「麦酒を頂くと憚りが近こう成って」「遠慮をする歳でも有るまいに」「そやね、あんたも麦酒を飲んで御風呂で尿垂れしたしね」嫌味を言うた。
 二人は佐太天神宮で御子が授かる様に祈って居った。世間の人は誰一人夫婦で無いとは思わ無かった。 帰り道、女は急に便所に行きたく成り困りだした。夜陰に隠れて道端で用を足してしまう事も出来たが神様に祈願をした後だけに憚られた。玄関で女はへたり込んでしまった「如何した」「立ち上がると漏れてしまう」と言い乍前を押さえ家鴨の様に御尻を振るので有った。「難儀な奥方じゃのう」女は我慢が出来ず漏らしてしまい恥ずかしい事に成った。失禁し恥ずかしさの余り放心状態で有った。男も興奮しびしょ濡れの女を犯してしもうたので有る。
 秋深し、葉子は実家の山で採れた松茸をようけ貰って来てしまい困って居った。笠の開く前の松茸は見た目は立派で有ったが、美味しい物なら近所に配れるので有ったが。今日も又松茸料理で有った。給料日には鋤焼きをするのに以前から何故か決めて居ったので有る。勉は糸蒟蒻が好きで有ったので有る。
「あんた、頂いた麦酒が有るねん、頂くやろ」「御前は飲まぬのか」「うちは飲めへん、又尿垂れしたら恥ずかしい」「いややわ、さっきしたのに又したくなった、最近きゅうに近こ成って困ってんねん」
 女は麦酒を口にせぬのに便所に駆け込んだ。
「御前、太たんと違うか、御腹が出て来たで」如何やらやや子が出来たらしい、佐太天神宮に詣でた御蔭で有った。
 二人はやっと市役所へ行き婚姻届を提出した、やっと念願の籍が入ったので有る。結婚したからっと言って葉子の下品な処が消えた分けでは無かった。
「寒、あんた、鼻水が落ちそう、鼻をかんで」相変わらずで有った。子供の様に甘えるので有った。
 寒くて辛い冬が遣って来たので有る。初雪が降り出し、猫の足跡梅の花で有った。鼠捕りの名手のさすがの黒猫も寒さには勝てず、人の寝床に忍び込むので有った。
 やがて葉子は玉の様な男の子を産み落とし、やっと母親に成れた。九年の年月が経って居った。相変わらず下品で有った。



            2006−05−21−126−01−OSAKA



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