蛙の面に小便

 蛙の面に水と言う諺が有る。どんな仕打ちに遭っても一向に平気な様の事で有る。
 葉子は後妻に修まり、先妻の四人姉妹の継母と成り頑張って居った。自分のやや子を欲しがったが出来なんだ。四人姉妹の春子、夏子、秋子、冬子は美人で病気もする事も無く、皆心優しい善き娘御で有った。いささか口煩いのでわ有ったが。昔は庄屋で大地主では有ったが戦後の農地改革で細々と農業を行って居った、亭主が亡く成り。葉子は色狂いに成ってしまい、見境無く男を家に連れ込むので有った。四人姉妹は皆呆れ帰ってしまて居ったので有った。
 年波に勝てず、憚りが近く成り家まで憚りの我慢が出来無く成った。或る日の事、如何にも我慢が出来無く成った葉子は村外れの石橋に差し掛かった時、誰も見て居無い事を良い事に、行き成り着物の裾を捲くり御尻を川に突き出して立ち小便を始めてしまった。橋の下で昼寝をして居った仁左衛門に見られてしもうたので有る。
「其方、見てしもうたんか」「心配致すな何も見て居らぬ」「寝て居ったのか」「見えたかも知れんが観た訳では無い」「誰にも言うで無いぞ、今日は仏滅じゃ、命迄取りはせぬが此れでも喰らえ」突然拳骨が飛んで来た。「何て酷い事をしよるか、川に小便何かし居って水神様の天罰が降るぞ」
「もう良い、此れ以上其方を責めたりはせぬ、仕事もせずに此んな処でぶらぶらし居って、何なら家に来ぬか」「亭主にして呉れるのか」「阿呆、誰が亭主にじゃ、家の下働きじゃ、田んぼの草取り、畑の水遣り、薪割りに、庭の水撒き、風呂炊き、板の間の雑巾掛け、憚りの掃除、牛の世話、鶏の餌遣り、年末の餅搗き、夏の大掃除、襖の張替え、猫の蚤取り、犬の散歩、塵の始末、近所の冠婚葬祭の手伝い、仕事等探せば幾らでも有るわ、給金は一銭も払わぬが、仕事振りに依っては小遣いはあげる、夕飯に銚子の一本を付けても良いぞ、早速じゃ、此の荷物を担いで家迄付いて来るが良い」

「お母はんの男狂いが又始まってしまった」「又かいな、未だ懲りへんのか」「お母はんの病気や」
「良い歳放いて、やや子が出来たら如何しよう、うち恥ずかしい」呆れ帰る四姉妹。

「裏の畑を見たで有ろう、草茫茫じゃ、里芋、南瓜、胡瓜、西瓜、薩摩芋、何でも育つぞ、肥やし次第じゃ、頑張るが良い」
「御免、おならを放いてしもうた」「お母はんたらはしたない、男の人の前で」
「御免て謝って居るやろ」女は豆腐を見て。
「冬子、とうふて如何書くか知ってんのんか」「豆に富やろ」「あんたも相変わらずやね、豆に腐るやろ」「其れわ其うと憚りの肥を早う汲み取って貰わねばな」「お母はんたら食事時に其んな話をしたりして」


「なあ、あんた、御風呂が空いたえ、うち、御手水を済ませたら、風呂に入るよって背中を流して」
 仁左衛門は後悔しだした。連れ尿が余程気持ちが良いらしい、何時も付き合わされるので有った。何やら用を足し乍話したい事が有るらしいので有る。
「なあ、あんた、欲望は何で理性では抑制出来ぬのかのう・・・、川には本当に水神様は居るのかのう・・・」着物を脱ぐ処を余程見せたいらしい。前も隠す気も無いらしい。
「これ、何処を見つめて居る、恥ずかしいではないか」
 男は目の遣り場に困ってしまうので有った。
「そんなに力を入れたら痛いでは無いか、女の柔肌に触れた事が無いのんか」「此れ、何時まで同じ処を洗って居る、汚ながらず、汚い処も洗っておくれ」

「お母はんたら、良い歳放いて、未だやや子が欲しいのんやろか」と春子。
「うち、恥ずかしい、家の恥晒しや」と冬子。                          
「客人用の蒲団は無いのか」「一流れは有るが大事な親戚の人用じゃ」「其方に寝小便でもされたら大事じゃ」女は物々言い乍、自分の蒲団を敷き座布団を二つ折にして枕代わりした。「寝る前にはめっどうくさがらずに憚りを済ませ、寝小便を垂れるで無いぞ」子供扱いで有った。
「何処を見て居る」「腋毛は剃らぬのか」「阿呆、何の為に」「乳当ては着けぬのか」「阿呆」
「良いな、御乳は触っても良いがおそそに悪さわするで無いぞ、悪さをしよったら小便を引っ掛けてやるよって」と言い乍も、股を淫らに開ける寝相の悪さで有った。

 次の日に御尻を叩かれ無理矢理汚い便所の汲み取りをさせられた、末娘が用を足して居る最中に汲み取り口を開けてしまったから大変な事に。
「又、覗きをしてしもうたんか」[そんなに覗きたかったらうちの尿を覗き」
「お母はんたら、そんなはしかない事を言って」「娘にてんごしてらうちが承知せいへんで」

 仁左衛門は畑の畝の真ん中を深く掘り下肥を充分に遣った。夏の収穫が楽しみで有った。
 春で有った。娘達も恋に恋焦がれて居った。女は相変わらず男を休日も野良に借り出しては仕事をさせて居った。
「なあ、あんた、こんな事を二人でして居ったら、何やら夫婦に成った様な変な気に成るね」
「あ、困った、急に御手水に行きたく成った。此処でするよって、人が来ぬか見張ってておくれ」
 行き成り御尻を捲くって遣り出した。
「ああ、気持ちが好い、スーとしたえ、あんたはせいへんのんか」呆れた女で有った。

 長い蒸し暑い憂鬱な梅雨が今だ開けず、長雨が降りつずいて居った。女は娘が居ない時は淫らな気が起こるらしい。
「うち、催すして来たわ、あんたも、来いへん、好い物を見せてあげる」と言っては憚りに誘い、扉を開けたまま儘、用を足してしまうのであった。丸見えで有った。
「お母はんたら、御不浄の扉を開けた儘用を足したりなんかして、はしたない」又叱られるので有った。 女は悪戯心を出しては男の顔を良く跨ぐので有った。パンツが丸見えで有った。
「お母はんたら、男の人顔なんか跨いではしたない」又、叱られるので有った。
 或る日、男が二女の夏子の御尻を触るのを見てしまった女は。
「夏子、御尻を触られて悲鳴を上げるて居る場合と違うやろ、二度とされん様に小便引っ掛けたり」
「お母はんたら下品な、其んな恥ずかしい事、女が出来る訳が無いやろ」

「又又、娘の御尻を触り居って、目が覚める様に、本当に小便引っ掛けたろか」パンツを脱ぎ居ったので有た。おそそが丸出しで有った。其の時、水神様の天罰が降ったのか。雷が庭の黒松の巨木に落ち、同時に雷鳴が轟き、幹が二つに裂け火柱が上がったり母屋の屋根の上に松の木倒れて来て、家が揺れたので有る。女はショックで我慢にて居った尿が出てしまってので有る。
「お母はん大丈夫か、何にてしてしもうたん」「堪忍え、夫婦に成ってあげるよって、堪忍」へたりこんでしまった「お母はん、気でも狂うたんか」「堪忍え、誰にも言わんといて」余程恥ずかしいかったので有ろう。娘に両手を合わして拝んでしまうので有った。

 夏も近い春の終わりの或る日曜日、男を荷物持ちに連れ添って親戚の家に出かけた。
「言い聞かせて置くが、処構わず立ち小便をするで無いぞ、わてが恥を掻くよってな」
 日頃、化粧等せぬ葉子では有ったが化粧をし、盛装した時は中々の美人で有った。珍しい西洋日傘を差し夫婦気分で有った。
 其の帰り、大川の渡し舟を降りた時、何時もの困り事が又始まった。
「あんた、又、御手水に行きたく成った、人が来ぬか見張ってておくれ」と言って葦原の中に入り込み御尻を捲くった時に一大事が起こって叫んでしまった。事も有ろうに、蝮を踏むんでしまったか内股を噛まれてしもうた。
「いやや、いやや、未だ死にとうは無い」取り乱してしまう女。
 仁左衛門は咬まれた処の歯型から血を吸い出し、蝮の猛毒を何度も吸い出したので有った。女は血を吸われて居る最中に死の恐怖の余りか尿失禁してしまったので有った。男は女を背負って医師の所に駆け込んだので有った。女は蝮の猛毒を吸い出された御蔭で噛まれた処は腫れ上がたが、命丈は取り留めたので有った。蝮の猛毒の血清等有る筈も無い田舎の医院の事で有った。何やら大蒜が効くらしい。
 仁左衛門は殺した其の蝮を自慢げに焼酎に浸けて蝮酒を作った。何やら精力に効くらしい。姉妹は見るのも嫌がった。
 真夏で有った。畑の作物も見事に育った。里芋は猛暑の為か珍しく華を咲かせた。大きな南瓜、西瓜、胡瓜、糸瓜、瓢箪、・・・。其々が見事で有った。
 しかし暑いので有った。畑の水遣るも大変で有った。そんな真夏にも人は死ぬるので有る。冬の喪服しか持って居ない人は大変で有る。扇子等堪え無いので有った。喪服の袖も泪で無く汗で濡れるので有った。長い長い有り難い僧侶の読経もやっと済んで、御棺も焼き場に向い、やっと灼熱地獄の葬礼が終わった。女は何時もの困り事で駆け足で戻って来て。草履を揃えて脱ぐ間も無く、憚りに駆け込んだ。
「あんた、入ってんのんか」「此処でしてしまうえ」女は堪りかね朝顔で何時もの様に用を遣り出した。男はそんな喪服の女が愛しく成ってしまい、憚りの大便所にに連れ込んで犯してしまったので有る。間の悪い事に娘が帰って来てしまい。又大変な事み。
「二人で御便所で何してんの」「今、夫婦に成ってしまって居るよって、外の御便所でしておいで」

 次の日の朝、四姉妹に散々言われたが堪え無いらしい。
「みっともない、御不浄所で盛ったりして」「そんな言葉使うもんじゃ無い」
「良いか、明日からうちの人をお父ちゃんと言うねんえ」呆れ帰る姉妹。
「御便所で夫婦に成ってしまったんか」と末娘の冬子。

 黄金の秋で有った。稲も豊作で有った。豊作貧乏と言う言葉も有る。自分の畑丈、豊作で有るのが一番で有る。我田引水の世界でも有る。稲の刈り取りも無事済み。籾の脱穀も済んだ。一年の大仕事が済んだので有る。
 夫婦の宣言をして、母者の色狂いが修まると思って居った姉妹で有ったが、如何やらやや子が出来る迄は修まらぬ様で有った。悪い事に、遺尿症迄始まってしまった、夜尿症で有る。寝小便垂れで有った。
「お母はんたら、良い歳放いてお寝小何かしたりして、みっともない」
「接吻して居る夢を見て居たら気持ち良く成ってしまって、放いてしもうた」
「一度、医師に見てもらったら良いのん違うか」
「冬子は接吻した事有るか」「有る訳無いやろ、未だ恋もした事の無い、処女やし」
「興奮しすぎて、しっこチビらん様に気つけや」「もう、汚い事を」
「あんたが阿呆な事するからや、何とか言い」男を叱りつかた、何やら夢で無かったので有る。



 四姉妹が反対するも、しないも、葉子に待望のやや子が出来てしまい。仁左衛門は正式に葉子の亭主に成った。ぐうたら亭主で有った。
 其の内、葉子は玉の様な男の子を産み落とした。やっと母者の色狂いは修まった。遺尿症も治った。四人姉妹は其々立派な男性の家に嫁ぎ、幸せに成ったが。自分の子の末男は何故かぐうたらで有った。仁左衛門が父親では当然の結果では有るが。






            2006−07−17−146−01−OSAKA



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