屁みたいな話

 五郎の美しい妻早苗は殊更上品で和服の良く似合う五郎の自慢の女房でもあった。早苗は七つも年下の為か淑やか乍も元気一杯で有った。長男は無事大学を卒業し就職し既に恋人の華枝が居り、時々遊びに来ては三姉妹とも仲良くして居た。結婚の話も着いて居ったので有る。犬のクロは真黒な烏の濡れ羽色の様な最近少なく成った風格の有る犬らしい犬で有った。五郎は五十五歳に成って退職金を既に貰ったが、給料が80%に下がってしまったが。仕事量は120%に増えてしまった。雑事も数多有りで有った。
 或る日の事、其の美人の妻の早苗が事も有ろうに主人の前でついうっかりおならを放いてしまって。
「はしたない」と主人に御尻を叩かれてしまった。「おなら位でそんなに怒らんでも」と口答えした事に更に腹を立て、思いっきり頬を打ってしまったから大変な事に成った。夫を信じて居た早苗は夫の暴力にショックを受けて家を出てしまった。両親とも亡くなり、兄弟も無く、帰る処の無い早苗は困り果て強引に五郎の実家に転がりこんでしまったから可笑しな事に相成ってしまった
 長男の一郎の恋人の華枝は「あんた、うちに三人もの妹の世話をさせる気か」式の日取り迄決めて居ったのに可笑しな事に成り出したので有る。
「お父ちゃん、明日から誰が御飯を炊くねんや、うち、お米の水加減が良う分からへん」「お姉ちゃん、洗剤でお米を洗ったらあかんで」「春子が炊き」と大学生の長女の夏枝。
「明日から誰が汚れ物の洗濯をするねんや、自分の肌着丈なら我慢して洗うけど、お父ちゃんの汚いパンツ迄一緒に洗うのんは嫌や、自分で洗ってや」と高校生の次女の春子。
「明日から、誰が犬の散歩に連れて行くねんや、散歩丈なら良いけど、犬のうんこの始末までさせられるのは耐えられない、猫に飼い替えよな」と中学生の三女の冬子。
「お父ちゃんは浮気でもしてしもうたんか。良く有る事や、頭を下げて謝って連れて帰っといで」
と長女。
 泣きっ面に蜂で有った、五郎は定年を目前にして配転させられてしまった。大学出の若い者に仕事を又一から教わる事と相成った。「何回教えたら解るんだい」と若者に言わてしまう毎日で有った。
 男の面子か意地か実家に帰るには余りに敷居が高かった。
 折りしも祖父の十三回忌の法事が近づいた。五郎は御供えを携えて、御参りに詣でた。黙り込んで御雛様の様な澄まし顔の二人。「何時までこの家に迷惑を掛けたら気が済むねんや」と叱り付けたら妻は仕方無しにか帰る事にした様で有る。
「お父ちゃん、もう二度と浮気何んかしたらあかんで、うちもう二度と御飯なんか炊かへんで」
「あんだけ言ったのにお父ちゃんの汚いパンツまで洗わされて豪い迷惑や」
「もう嫌や、二度と犬の温かいうんこをなんかさわりとうわ無い」
 又何時もの様な平穏な日々が暫くは続いたが、一郎の結婚式が一週間後の控えた或る休日、台所で夕食の用意で水仕事をして居った早苗は急に小用を催し便所に小走りで駆け込んだが運悪く主人が大便所に入って居た、我慢出来無く成った早苗は矢庭に御尻を捲くって朝顔で小用を足してしまった。
「はしたない」と又御尻を打たれてしまった。「おしっこ位で又私を打つのんか」又、実家に帰られたら恥を掻くと思った主人は上げた手を下ろしたが。其の時久し振りに何やら催してしもうたので有る。
「あんた、こんな真昼間に何する心算や、娘達が帰って来てしまうやないか」
「言う事を聞け」と野獣の様に後ろから犯してしまったので有る。妻の早苗はは絶えられ無い屈辱を受けたので有るが、何としても一郎の結婚式が済む迄はと我慢したので有ったが。
「お父ちゃんたら、又浮気してしもうたんか」「病気か」
「お嫁さんの華枝さんも気の毒な、何も知らんと新婚旅行に行ってしまって、帰って来てビックリするできっと」
「如何するねんや、次の法事はそめ大婆ちゃんの五十回忌の法事で二年先やで、二年も待ってられへんで、恥を忍んで頭を下げて謝って連れて帰っといで」と長女。
「あんた、うちを騙したんか、うちが御飯を炊き、家族の汚れ物の洗濯をし、犬の散歩に連れていかんならあかんのんか」唖然とする嫁御
 二月も経つと五郎の実家も困り果てた。
「早苗さん、あんたやや子が出来たんと違うか」何やら様子が可笑しいので有った。五十の恥掻きっ子で有る。
 五郎に迎えに来る様に、ヤンヤの催促で有った。仕方無く迎えに行って又母者に叱られた。
「又、良い歳放いて浮気何か為居って、御前は病気か」「やや子が出来ると言うのに暢気な」と母者。
「お母はんも気の早い、一郎が新婚旅行から帰って来て未だ二月、やや子は未だ出来んでしょうに」
「一郎のやや子の事で無か、五郎、御前のやや子の話じゃ」と母者。
「阿呆、あんな事しおって、やや子が出来てしもうたでないか」と妻の早苗が澄まし顔で。
 一郎の嫁御の華枝も直ぐに身篭てしまい、姑の早苗迄も身篭り何やら可笑しな事に成ってしもうたので有る。
「お母はんにもやや子が?」華枝は呆れ返ってしまった。
 美人で上品な華枝は猫を飼いたいと駄々を捏ね、犬が大地に耳を着けてまどろみ、猫は誰かまわず膝の上や背中迄載りたがるし、冬の板の間では歩いて居る五郎の足の上にも載りたがる始末で有った。何やら家の中が急に賑やかに成ってしまった。姑の早苗は嫁御は夫の前では決しておならは為ぬ者と思い込んで居ったら、平気でして居るのをしって唖然としてしまった。離婚される程の大事では無かったので有る。やがて早苗は男の子を産み落とし、華枝はかわいい女の子を産み落とした。母子と共に元気で有った。何年かして五郎は定年を迎え、庭弄りとパソコンでのインターネット三昧の優雅な毎日では有ったが。
「あんた、仕事を探す気は無いのんか」未だ扱き使う気らしい。
七十歳迄は年金で何とか生活は出来そうで有るが其の後の術が見当たら無い。やがて娘達も年頃に成り、良き縁談が見つかり、嫁ぎ、又物入りで有った。孫が出来たら出来たで又物入りうで有った。子や孫が入学したらしたで又物入りでも有った。何時の間にか預金も底を尽きかけて居た。
 五郎は年甲斐も無く阿呆な事をしたので有った。世間に恥を掻いたので有った。






            2006−10−08−01−02−OSAKA





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