水中花

 誰も見ぬ水の中でも花を付ける藻が有る。バイカ藻の水中花でも有る。与助は橋の上から流れに揺れる藻の白い花を見ながら乍考え事をして居った。流れる川の水は元の水では無い。万物、過去に戻れぬ非情の世界でも有る。学生は青春の真直中に居乍、青春を謳歌出来ずで有る。未来への不安、恐怖が有る。受験地獄が学生の心を蝕んで居る。最愛の母者迄、凶刀の刃を向ける学生さえ居る。後悔先に立たずで有る一万回死んでも殺された人は生き返ら無い。万死をもってしても償え無いので有る。誰でも良かったと平然と放言して仕舞う犯人(現行犯でもそう言う)。性犯罪は殊更再犯性の強い犯罪で有る。天女の様な誘拐し犯し殺害に及ぶ犯人すら居る。遺族の悲しみを逆撫で為かの如くに精神鑑定を言い出し平然と無罪を要求する弁護士団。忌まわしい裁判に法律用語も判らぬ素人を参加させる珍奇が間も無く始まる。誰もが反対する徴兵制度の再執行の為の布石の一つか。世界的に最高水準の平和憲法を改悪しようと目論む政治家も居る。若者が国の為に命を平気で捧げる愛国心に満ち溢れたさす教育基本法の改悪も有る。
「あんた、こんな浅い川では自殺は出来へんえ」運悪く男好きの妻の妹の華子に出会って仕舞た。清純な姉の清子とは大違いで有った。
「誰も自殺等せん」
「お姉ちゃん逃げられて、嘆くのは判るが死ぬなんて阿呆の為る事やで」
「水中花を見て居た丈じゃ」
「なあ、安くして置くよってお姉ちゃんの代わりしてあげる」
「老耄した御母はんの面倒は如何する気え」
「押し売り売女とは御前の事か」
「酷い言葉を使って、今時そんな言葉使ったら訴えられるえ」
「なあ安くして置くよって、やらしい事さしてあげる」
「うち、催して来てしもうた」「何と言うはしたない女子じゃ」
 家に迄押しかけて来て仕舞った幼馴染の妻の妹の華子。売春をして居ると言う悪い噂が絶え無い。
 スカートを汚して仕舞い、恥ずかしくて帰るに帰れず途方に暮れて居ると、間の悪い事に、老耄した母者が帰って来て。
「清子さんか、よう帰って来て呉れた。わてが生きて居る間に孫を産んで御呉れ」清子と思い込んで仕舞った母者。
「お母はんたら、うちを姉の清子と勘違いして居るえ」
 華子との珍奇な夫婦ごっこが始まって仕舞った。結婚もして居無い女と一つ蒲団で寝る珍奇。脚で突いて催促する有様で有った。
「これ、何時迄お乳を触ったら気が済むのじゃ、あんたはやや子か」夢現で触って仕舞って居ったので有る。
「華子は腋毛は剃らぬのか」「何で」
「もう直給料日やわね、待ち遠しいわね」「今時は何処も銀行振り込みで、サラリーマンは下ろしに行くのに苦労してる」「心配しな、下ろしに行く時間位なんぼでも有るえ」
 老耄為て居た母者が確り為出し華子に疑問を持ち出した。
「あんたは本当に清子はんか、以前の清子はんと何やら違う見たいやで、料理も苧環蒸しみたいな変わった料理を作るし、牡丹餅も好きだし、声も少し変やし、風呂も一緒に入りたがるし、汚いパンツ(下着の事)も嫌がらずに洗濯為るし」
「人も変わるのよ御母はん」
「おしかけ売女とはあんたの事か、人の噂を聞いたえ」
「そんな酷い言葉を使って、今時そんな言葉を使ったら訴えられるえ」
 或る日の事、嫁が楽しそうにやや子の産着を縫って居るのを見て仕舞った。如何やらやや子が出来たらしい。清子は子宮筋腫で子が産めぬ身体で有る事を思い出した。清子では無かったので有る。其れ以降は母者は呆けた振りして騙され続けた。嫁は可愛い女の子を産み落とした。夫婦ごっこが本当に成って仕舞ったので有る。或る吉日に母者と三人連れで近くの佐太天満宮に宮参りに出かけた。帰り道で姑の夏代が変な事を言うた。
「清子はん、あんたの妹の華子ちゃんは如何した、もう結婚したんか。尿垂れの病気はもう治ったんか」
 華子は四人の子を産み落とし子育てに大童で有った。老耄して居た夏代も元気に成った。或る日の事、亭主が破産して失意の内に家に戻った清子は妹を見て唖然と為て仕舞った。
「華子、こんな処で何して居るの、泥棒売女とはあんたの事か」
「酷い言葉を使って、今時そんな言葉を使ったら訴えられるえ」
「太郎か、又、悪さして帰ってきょったんか、又、謝りに行かん成らんのんか、糞垂れ為て仕舞ったんか」間の悪い事に姑の夏代も帰って仕舞った。
「お母はんも元気そうやね」
「清子さんか、華子、嘘吐き売女とはあんたの事か」
「又、酷い言葉を」
「与助さんは元気」「何の用」
「夫と正式に結婚する為に離婚届けに判子を貰いたくて」
「破産して借金を背負って居る人と結婚為るの」「愛して居るの」
「まあね」

 華子は華子として正式に与助と結婚した。困った事に華子の因果な病は未だ治らずで有る。     

          2008−08−25−351−02−01−OSAKA



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