庇を貸した男

 或る暑い暑い夏の日の午後に、あれ程晴れてた空が急に曇り出し、突然突風が吹き、夕立が降り出した賢治は慌てて窓を閉めようとした時、庇の下で女が雨宿りをして居るのを見掛けた。
 「其の様な所では濡れます。中で雨宿りをなされては」「有難う御座居ます、御言葉に甘えまして」
雨は何時まで待っても止まず。女は傘を借りて帰った。
 次の日も其れは其れは暑い猛暑の日で有った。女は傘を返しに遣って来て。咽喉が渇いたので、水を欲しいと言い出し二人は暫しの間、世間話をし、女は便所を借りて尿を放て帰ってしもうた。
 暫く経って、或る祭りの日の晩に、賢治は近くの佐太神宮の石の鳥居の前で偶然に女と出会た。
 「あら、又御逢いしましたわね、良く逢いますわね」
 二人は夫婦の様に、揃って神社に詣でた、女は隣町の女、一美で有った。二人は暫くの間世間話をして居ったが、急に女は御腹の具合が悪く成ったと言い出し便所に行きたがった、何か悪い物でも食べたので有ろう、賢治の家に着くなり女は恥も外聞も無く便所に駆け込んだ。尾篭な話で恐縮では有る。女は家に帰る途中で又したく成ったら困ると言い出し、泊めて欲しいと駄々を捏ね泊まり込んでしまったので有る 男と女が一つ屋根の下で寝たので有る。女の下痢は酷く、其の夜何度も便所通いし。二人の間には男女の間違い等が起きる状況では無かった筈では有ったが。
 朝に成って、女はすっかり元気に成り。勝手に台所に入り込み朝食の用意を始め出した。何やら美味しそうな味噌汁の匂いが、一人者の賢治は味噌汁等自分で作った事等一度も無かった。女はもう夫婦に成った様な気に成ってしまって居ったので有る。
 「こんな処を貴方の愛しい人に見つかったら、さぞかし誤解を受けるで有ろうのう」
 「そんな女等居らぬ」
 「貴方に御礼をしたいが急の事で何も持って居らぬ、私の抱擁を受けて下され」変な女で有った。
 女に抱擁等された事の無い賢治は、其の女が愛しく成ってしもうた。
 と、其の時で有る。女の父親が遣って来てしもうた。一晩中娘を探して居ったので有った。
 「御父さん」
 「御前か、娘を傷物にした男は」父親は賢治をいきなりぶん殴ってしまった。
 「責任を取って、娘を嫁にすると言うのなら、此れ以上はわしは何も言わぬ」
 「何と言うふしだらな娘だ此んな男と一夜を共にしおって。勘当だ家には戻って来るな」
 女はもう家には帰れ無いと泣き付き、家に居座ってしまったので有る。
 女は働き者で掃除、洗濯、料理と人並み以上では有った。結婚もして居無い赤の他人が家に住み着き、夜に成ると賢治の布団に入り込み寝るので有った。賢治が風呂に入って居ると赤の他人の女も入って来てしまうので有る。男は目の遣り場に困ってしまうので有る。女は羞恥心が無いのか、前を隠す事を知らないので有った。或る日、傍で寝て居る女の御乳を触ってしまって居ると。
 「何時まで触って居るのじゃ、まるでやや子の見たいじゃのう、他にする事が有ろうに」特に叱る様子も無かったので有る。極普通の女房の様でも有ったが。
 其の女房が金曜日に成ると乱れるので有る。
 「結婚して上げる」又、何時もの口癖が又始まるので有る。
 「抱擁さして上げる」言うとおりにしないと叱られるので有る。
 「御尻を触らせて上げる」如何やら順番が有るらしい。
 「御乳を触らして上げる」如何やら御乳に触れられると尿がしたく成るらしい。
 「前を触らして上げる」何やら下穿きは濡れてしまって居る見たいで有った。
 女は尿を我慢しては前を弄り何やらもじもじとして、恥ずかしい性癖の快楽の法悦に浸って居ったので有る、女はは本に変態で有った。
 風呂から上がってもバスタオルを腰に巻き着けた丈で何やら甘えるので有る。
 「接吻させて上げる」
 「これ、手を抜くで無い、真面目に致せ」賢治は何時も叱られえるので有った。
 朝に成って其の女は豹変するので有る。
 「こら、阿呆、呆け、粕、昨夜は何と言う悪さをしよったのじゃ、貴方は変態か、他人には決して言うで無いぞ、私は恥ずかしくて御外が歩け無いぞ」
 賢治は又、散々叱られるので有った。
 女は羞恥心が無いのか、其の下品な事と言ったら。賢治の前で平気で鼻はかむは、おならは放は。便所の扉も閉めた例が一度も無かった。
 其の女は給料日が近づくと何やらそわそわし出すので有る。如何やら全部をせしめる積もりらしい。賢治の預金通帳も自分の物にとっくにしてしまって居た。年二回の賞与も自分丈の物と思い込んで居るらしい。賢治は小遣いも赤の他人の女に頼み込んで貰わねば成らなかったので有る。
 賢治は女に庇を貸して母屋を乗っ取られてしまったので有る。困り果てた賢治は何か良い方法は無いものかかと佐太神宮に詣でた夜、女の御腹を触って居ると何やら大きいので有る。如何やらややが出来たらしいので有る。賢治は慌てて一美と結婚し、籍を入れた。
 一美は五人もの子を産み、立派に育て上げた。賢治は或る製薬会社の部長に迄出世したが、生涯一美の尻に敷かれっぱなしで有った。
 祖父の五十回忌の法要の日に、嫁いだ四人の娘が帰って来た時、母の一美が六人目の子を孕んで居るのを知って、開いた口が塞がら無かった。末息子の婚約者の清子も呆れ返ってしまって居った。
 「良い年し放てみっともない」「恥さらし・・・」「あんたが清子さんか苦労するね・・・」
 当の賢治も未だに妻の一美が何を考えて居るのか判ら無かった。いやはや女と言うものは強かで有った

              2005−08−15−58−OSAKA



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