夏休みの出来事

 暑い暑い猛暑の夏で有った。学生は夏休み中で有った。少年次郎は山の様な夏休みの宿題もほったらかして海で遊び惚けて居った。或る日の事、少女が海で溺れて居った。少年は海に飛び込んで少女を助けたのである。命を救ったので有った。命を助けて貰った少女は、夫婦に成って一生掛かっても恩は返すと言い出しては、ちょくちょく少年の家に遣って来るので有った。或る日、少女は朝早くに遣って来て、勝手に二階の次郎の部屋に忍び込み、少年の布団に潜り込んで寝て居った。
 「あ、こら、又何処で寝て居る、此んな所を御父はんに見付かったら又どやされるで」
 「良えやんか、うち達、夫婦に成るんやし、かまへん、かまへん、気にせんといて」
 「もう御乳も膨らんで来たえ、触って見るか」少年は呆れ返ってしまって居った。
 「人が溺れて居たら助けるのが当たり前、何も結婚までせんでもええやん」
 「嫌や、嫌や、うちは恩知らずには成りとう無い」少女は次郎に抱き付いた。二人は朝の浜に手を繋いで遊びに出かけた、未だ子供で有った。「何時も、仲が好いのう」朝の早い漁師に冷やかされた。
 二人は砂浜に着いてとんでも無い物を見てしまったので有る、海豚が砂浜に打ち上げられて居たので有る。未だ生きて居るらしく時々もがいて居った。
 「大人を呼んでこうか」「其んな事して居る内に汐が引いてしまうわよ」
 「咬まれん様に気付けや」二人は満身の力を出してやっとの事で海に引き摺り戻した。海豚の命を救ったので有る。二人は力尽きて砂浜にへたり込んでしもうた。「如何した」「あんまり力んだので尿が出てしもうた、誰にも言うたらあかんでえー」未だ子供で有った。良く漏らすので有った。
 其れから何日か経って、潮騒の聞こえる洞窟で一人昼寝等して孤独を楽しんで居った。其の時海の女神薄絹を纏ったビーナスが現れ。
 「此の前は、海豚を助けて頂いて有難う。御礼に御前の願いの内一つ丈叶えて差し上げよう。誰よりも長生きはしとう無いか、誰よりも丈夫に成りとうは無いか、其れとも、誰よりも御金持ちに成りたくは無いか」「其方の様な善き妻が欲しい」「其れは叶えられぬ、御前には既に婚約者が居るではないか」「夏子の事か」「其の娘を大事にするが良い、元気な子を五人も産んで呉れるで有ろうう。困った事が起きたら此の貝に願いを言うが良い、一度丈は叶えられるで有ろう」少年は目を覚ますとビーナスは居無く成って居たが、見事な巻貝丈は其処に置かれて有った。耳に当てると何やら女神の囁き声が聞こえて来る様でも有った。「夢では無かったのか」少年は其の貝を宝物の様に大事に大事にして居った。
 或る日、日傘を差した着物を着た粋な女が遣って来た。
 「なあ、お兄さん、此の辺に憚りを借りれる家は無いか」「便所の事か、皆其の辺でしてるで」
 「なあ、お兄さん、誰か来いへんか此処で見張って呉れへんか」女は着物の裾を捲くり尿をし出した
 「ああ気持ち良かった、ようけ出たわ」「おばちゃんは御腹が大きいのか」「お姉さんでしょ」
 「なあ、お兄さん、田中さんの家は未だ遠いのか」「え、家とこに用か」
 「あんた、次郎さんか」「何で名前を知って居るねん」
 女は次郎の亡くなった兄の一郎の子を宿して居る、何とかして欲しいと遣って来たので有った。
 「僕が責任取って結婚して遣る」「あんたは、未だ子供やんか、呆れた」其れを聞いて居た少女は喚いてしもうた。「嫌や、嫌や、うちと結婚するねん」
 女は居座ってしまった。何日たった或る日、嵐が遣って来た、嵐の夜、女は産気付いてしまい、家で御産をしたのだった。朝に成って、大きな船が浜に座礁してしまって居った。台風で有った。
 其れから何日か経って一大事が起きた、子供を残して女が入水自殺をして死んでしもうたので有る。
 「何で、自分の子供を残して」次郎には女の心が判ら無かった。
 女を一郎の嫁として葬式を行った。女は田中家の先祖代々の墓に葬られた。葬禮も無事すんだが母が疲れて倒れてしもうた。如何やら病気が重いらしい。少年は神社や御寺も拝みに廻って見たが。
 「そうだ、彼の貝に御願いして見よう」貝の事等すっかり忘れて居ったので有る。
 少年は貝に母の病が治る様に、必死に祈って居るのを赤子を抱いて勝手に二階に上がって来た少女に見付かってしもうた。
 「誰に、話をして居るのじゃ、倒頭暑さで気でも狂うてしもうたか」少女は貝を奪い取ってしもうた
 「何をする。其の貝は海の女神から頂いた大事な大事な物ぞ、返して御呉れ」
 「うちと夫婦に成ると言うまで返さぬ、此んな貝が願いを叶えて呉れるか、愚かな」
 「粗末に扱うと罰が当たるぞ」夏子は貝を床の敷居に落としてしまい巻貝は欠けてしまったので有る。次郎の大事な大事な物を壊してしもうたショックで夏子は赤子を抱いた儘尿垂れをしてしもうたので有る余程我慢をして居った尿は止めようが無く呆れる程に大量に漏れてしもうたので有る。畳の上でで有る。其れを見た次郎も可笑しく成ってしまい、赤子が座敷の上で泣いて居っても構わずに夏子を犯してしもうたので有る。病気の母が下で呼んで夏子は慌てて赤子を抱いて階段を下りて行った。衣服も髪も乱れて居った。気だるい様な暑い夏の午後の話で有った。
 「二階で何か有ったのか、スカートが濡れて居るが」「今、夫婦に成ってしもうた」「え・・・?」
 次郎の願いが海の女神に依って叶えられたのか、注射が効いたのか、母の病は急に良く成った。熱も下がった。次郎の母は元気に成り過ぎ、色気付いてしまい、夏子の父と夫婦に成ってしまい、良い年放いてやや子が出来てしもうたので有る。夏子もやや子が出来てしもうたので有る。未だ子供でなのに。二人は兄妹にも成ってしもうたので有る。ややこしい事に成ってしもうたので有る。
 日本の夏の蒸し暑さが人々を狂わせるのか。人は死に、人は生まれるので有る。其れが人生で有る。


              2005−08−21−61−OSAKA



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