ど壷に嵌ってしまった少女

 暑い、暑い、猛暑の夏で有った。学生の健太郎は山の様な夏休みの宿題もほったらかして遊び惚けて居った。少年の唯一の仕事は赤牛の世話で有った。村の周りには、蓮根畑が在り、蓮の花が今を盛りと咲き乱れて居った。蓮の花は、汚い泥の中に在って、清楚な花を咲かせる事から、仏教では蓮の花を悟りを象徴して居ます。傍には小川が流れて居った。暑くて、暑くて、誰もが昼寝をしたがる、茹だる様な夏の日の午後で有った。少年が赤牛を連れて世話をして居ると、牛は蝮に出会ってしまい脅え、暴れてしもうたたまたま道を歩いて居った少女は、牛の突進を避けるようと、事も有ろうに、野壷に嵌ってしまったので有る。大変な事に成ってしもうたので有る。赤牛は何処かへ行ってしまうし。少女は全身人肥塗れに成って溺れて居ったので有る。少年は必死に成って助け上げ、近くの小川で沐浴をしたので有った。
「悪かったな、何処も怪我せなんだか」
「冬子、夏で良かったなあ、冬やったら凍え死にする所やったで」
「如何しょう、もう二度とお嫁に行け無い様に成ってしもうた」
 少女は突然に襲われた此の世の生き地獄に遭って、喘いでしまった。
「良かったら、家へ着たら良いやん」「此んな事に成ってしまった、うちでも良いのんか」
「家の赤牛は何処へ行ってしまったんやろ、またどやされるがな」少年は牛の事が心配で有った。
「如何した、気分が悪いのんか」「尿がしとう成った」「人が来ん内に早う其処でしてしまい」
「其んな恥ずかしい事、男の人の見て居る前でなんか、死んでも出来けへん」と言い乍も我慢が出来無く成ってしまい。「見たらあかん」シュミーズ一枚に成って、小川の中で立った儘、尿をし続ける少女を見て居る内に、少年は今までには感じた事の無い、激烈な欲情に迫られ、いきなり無理矢理草の上に押し倒してしまい、少女を犯してしもうたので有る。
「今、何をし居ったんや、うち等夫婦に成ってしもうたんか」
 分けが分から無い内に終わってしもうたので有る。「痛かったか」
「あんた等、こんな所で何して居るねんや」運悪く日傘を差した学校の女先生に見つかってしもうた。
「悪さしたらあかんで」と言って行ってしもうた。「悪さて、さっきしてしもうた事の事か」
「見てみ、縁起でも無い、此んな時に葬礼の行列や、誰が死んだんやろ」墓の焼き場まで運んだので有る「家の牛が帰ってきよった」少年は牛を捕まえて来て。
「さあ、早よ帰えろ」「此んな格好じゃ恥ずかしくて家には帰れ無い」と駄々を捏ね。
「とにかく、家に来て風呂に入って帰り」「何時までも此んな所に居てられ無いで」
「あんたがさっき変な事したからもう歩かれへん」少女は腰が抜けた様に成ってしまったので有る。
 少年は少女を赤牛の背に載せ帰途に着くと。
「不味い事に成った、喋りの小母ちゃんが遣って来よった。何を聞かれても、何も言うたらあかんで」
「あらら、冬子ちゃんやないか、何時、ぼんのお嫁さんに成ってしもうたんえ」二人をからかった。
「お母、ど壷に嵌ってしもうた」「あら、まあ、如何しましょう」呆然とする母親。
「冬子ちゃんか直ぐに風呂を沸かすよってな、健太郎、お前は裏の井戸で水浴びしとけ」
 健太郎の母は、冬子を風呂に入れ、隅々まで石鹸で洗ってあげ、着替えさせたので有った。
「あんたが冬子様か、健太郎を宜しゅう」広島に嫁ぎ、原爆に被爆し、何年かして体を悪くして実家で養生して居ったので有った。無理して起き上がって其う言った。「無理せんと。具合が悪いんでしょ」白血病で有った。
 やがて、日が暮れて、冬子は夕食を頂いて居った。
「冬子様はかわいいね、まるで蓮の花の様やね、いっそのこと家の子に成ってしまわへん」からかった。「出来る事なら、うちもそうしたい、子供を産んで、助けて貰った恩を返したい」「ええ、何やて」
「お母、こらえて呉れ、叱られる序に言ってしまうが、今日、冬子と夫婦に成ってしもうた」
「何やて、其んな事までしてしもうたんか、この罰当たりめが」しかし、母は叱るのを止めてしもうた。 夜が明けて、健太郎が目を覚ますと傍で冬子が寝て居った。「これ、冬子何処で寝て居る」「かまへんかまへん、うち等もう夫婦に成ってしまったんやし、気にせんといて。未だ臭うか。あんたのおっかさんて素敵やねえ、うちは気に入ったえ、あんたとは月と鼈やね、なあ、御乳を触って見いひん、もう大分大きく成って来たえ、早うやや子が出来たら良いな。ああせや」少女は掛け布団を捲り上げ、母者の借りた寝巻き乱れを直し、布団の上に正座し何やら改まった事を述べたいらしい。
「不束な嫁ですが末長ごう宜しう御願い申し上げます。命を助けて戴いた恩は子供を産んで返しとう御座居ます・・・」「あんた等何して居るの」又、小母ちゃんに見つかってしもうた。産婆の資格を持っている女は二人の様子を診に来て居ったので有った。
 夏も過ぎ去ろうとして居った。少年の自慢でも有った、天女の様な美人の姉の真理子の容態が急に悪く成って、到頭、亡くなってしもうた。
 葬式の当日、冬子も手伝いに来て呉れた。
「何で姉ちゃんが死ななならへんのや、広島でピカドンに遭ったからか」
「何時までボーとして居る、確りせ、うちが着いて居るやろ」尻を引っ叩いてしもうた。
「健太郎のやつ、又、嫁様に叱られて居るわ」村人は二人を素見すので有った。
 秋に成って、学校が始まって直ぐに、冬子の父と健太郎の母が学校に呼付けられ叱られてしもうたので有る。冬子にやや子が出来てしまって。一人者の冬子の父と健太郎の母は結婚してしまい。其の二人にもやや子が出来てしまい。良い歳放いて恥を掻いたので有る。何やらややこしい事に成ってしまったので有る。
 其の後、月日が経って、冬子は四人もの子を産み、恩を返したが、一方健太郎の方は電信電話局の局長に迄成り、村の役もしたが冬子には尻に敷かれぱなしで有った。野壷に嵌った事等言い出す族は村人の中には一人も居無かった、誠に心の優しい村人が居った良き時代の話で有った。母親は九十一歳で亡くなるまで、信仰心が深く、毎日水差しを持っては、村の地蔵尊に詣でて居った。時には、地蔵の涎掛けを取り換えて居った。其のせいか、何時迄も元気で有った。


              2005−09−11−64−OSAKA



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