ピンチヒッター

 親子三人暮らしの幸せな家庭を奪った突然の不幸、学問好きの美しい妻菊子が癌で倒れて入院してしまったので有る。姉は死期を覚ったのか、妹の元子に息子の健太の母親に成って貰う事を願って帰らぬ人と成ってしまった。
 葬式も済み、暫くして妹が遣って来てしもうた。顔は姉に似てそこそこ美人で有ったが、学問好きの姉とは大違いで、男勝りで其の下品な所と言ったら、健太と父親は唖然としてしまった。
 女も元気の有り余った健太の腕白振りには嘆きの毎日で有った。
「叔母ちゃん」「又、悪さをしでかしてしもうたんか。又、うちが謝まりに行かんならあかんのんか」
「うんこがしたいのに出えへんねん」「子供やのに便秘か、庭のアロエを卸して飲み」女は苦い苦いアロエの卸汁をむりやり飲ませた。暫くして健太は便所に駆け込んだ限中々出て来無かった。
「何時まで入って居るねんや、未だ出いへんのか、うち、もう、我慢がでけへん、しっこが出そうや」
 アロエの効果かうんこが全部出てしまって便秘が治りスーとした健太で有ったが。便所から出てとんでもない光景を見てしもうた。
「如何したん良い歳こいて小便垂れしてしもうたんか」「阿呆、呆け、粕」「我慢出来へんかったんか」「誰にも言うたらあかんで、内緒やで、指切り出来るか、解って居るな、違えたら、指を十本とも切られ一万回拳骨で叩かれ、針を千本飲まされねんで、良えな」「床のしっこを雑巾で拭いとくねんで」
「何で叔母ちゃんの小便垂れの始末まで僕がせんなあかんの」「あんたのせいやろ」
 自分では何もしない女で有った。
 或る日の夕方、広場で野球をして遊んで居ると女が迎えに来て。
「良い女やな、誰の御母ちゃんや」「家の新しい御母ちゃんや、良い歳こいて小便垂れしょんねん、僕困り果てて居るねん。あ、豪い事言うてしもた、誰にも言うたらあかんで、家の恥やさかい」
「野球か、ソフトボールやったらした事有るねんけどな」
「ええ、うちに打たして呉れるのんか」
「あんた、うちが女やから手を抜いて居るやろ、もっと真面目に遣り」ピッチャーに文句を付ける女。
 まぐれで当たったボールは途方も無く遠く迄飛んで行ってしまい、向いの民家にの窓を直撃し窓ガラスを壊してしまった。「ホームランやがな、何と言う馬鹿力や・・・」
「気にしな、ガラスぐらい弁償したらしまいや。一緒に行って謝って上げるよって」
「小便は大丈夫か」「ええ」「他所の家で小便垂れしてしもうたらあかんで」「これ、阿呆、呆け」
「この餓鬼、又、御前か」「あの、それが」「ええ、あんたが打ったんか」「すみません」
「この餓鬼がしたのなら、わしも本気で怒るがなあ、あんたではなあ、怒るわしが恥を掻くしな・・・」「健太、この小母ちゃんは何処の人や」「今頃何寝ぼけた事言うてんねん、死んだ御母ちゃんのピンチヒッターの新しい御母ちゃんで妹の元子さんやがな」「姉の子が此んな餓鬼じゃあんたも苦労するな」
 或る日の夜、長湯をし過ぎ、湯当たりで女はバスタオルを腰に巻き付けた丈で出て来てしまい倒れてしまった。「ああ、目が廻る」其の淫らなかっこと言ったら。
 暫く経って女の湯当たれりは治まったが、今度は男が治まらず其の夜女を犯してしまった。
 朝に成って。
「こら、阿呆垂れ、貴方は何を考えて居るのじゃ、あんな悪さを平気でしおって、姉が生きてたら何て言ったで有ろうかのう」叱られる男。
「其はそうと、貴方は何かを忘れて居らぬか、昨日は給料日ではなかったのか、姉からは幾らの小遣いを貰って居った。うちは姉とは違うえ、無駄使いは大嫌いじゃ」如何やら小遣いを減らす心算らしい。
 女は欲求不満か直ぐに前を弄る悪い癖が有った。少年は見るにみかねて。
「其んなに子供が欲しいねんやったら僕が結婚して上げようか」「ええ、何やて、あんた未だ子供やろ、この、阿呆垂れ」「御父ちゃんと夫婦に成っても子供が出来へんで、糖尿病でインポテンツ気味やし」
 或る日、夕食後の片付けを遣って居る女が便所に行きたいのか、前を弄り、何やら淫らにモジモジし乍も一向に便所に行こうとしないので有る。男は其んな女が愛しく成ってしまい。いきなり接吻をしてしまったので有る、ショックで我慢して居た尿が出てしまい、見っとも無い事に。
「御母ちゃんたら、又、小便垂れしてしまうたんか」「今、名に言うた」「あ、豪い事言うてしもた、聞かなんだ事にしてな、針千本も飲まされたら大変や」
「貴方のせいやで、変な事するからや、自分で床のしっこを雑巾で拭いてや」女は突然泣いてしまい。
「うちと夫婦に成って、こんな女に愛想付かさんといて、健太の良い母に成るよって」
 男は恥ずかしさの余り放心気味の女を寝室に連れて行って何やら始めてしもうた。
「又、何で僕が御母ちゃんの小便垂れの始末をしゃんならんあかんねん、ああ、しまった、叔母ちゃんと言う処、御母ちゃんと言ってしもうた。まあ、ええか」一人何やらぶつぶつ言い乍雑巾掛けをする健太。 朝に成って。父は又酷く叱られてしまったので有る。
「阿呆、呆け、粕、貴方は何を考えて居るのじゃ、あんな悪さを平気でしおって、姉が生きて居たら何て言ったで有ろうかのう」散々叱られたので有った。
「其はそうと、貴方は何か忘れて居らぬか。昨日は賞与の支給日ではなかったのか、姉からは幾らの小遣いを貰って居った。うちは姉とは違うえ、無駄使いは大嫌いじゃ」如何やら又小遣いを減らす心算らしい「健太、ええか、今日からうちの事を御母ちゃんと呼ぶねんえ、分かったな、言う事をきかなんだらしばくえ」
「偉そうに、昨日何か遇ったんか、もう夫婦い成ってしもうたんか」
 不幸な事に元子には何ぼ努力しても終にやや子は出来無んだが、姉の子の健太の良き母と成り、苦労して大学院まで行かせ、終には博士号を取得させたので有る。学問好きの姉の願いを生涯を掛けて叶えたので有る。


              2005−11−16−76−OSAKA



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