下着泥棒と間違えられた男(鬼女の泪) 或る集合住宅の五階に住む男がベランダに何か落ちて居るのを拾い上げて見て居ると。 「ドロボー!」「ええ、何処に」「あんたの事やがな、此の下着泥棒!」 暫くして、上階の女が遣ってきてしもうた。 「時々、うちの下着が無く成ると思って居たら、全部あんたやろ、白状せい」 「如何遣って上の階まで攀じ登ったと言うのか」 「呆れ帰った話じゃ、住人の中に犯人が居ったとわな、うちなら此んな事が住人に知れたら恥ずかしくて住んで居られ無いがな」 「風で吹き飛ばされて来たんじゃろがな」言い訳ばかりの男。 「奥さんに逃げられ、うちの下着を盗んで慰めたい気持ちも分からんでも無いがな、下着泥棒は犯罪ぞ、いいかげんに目を覚ませ、此の呆け、阿呆たれ、此れでも食らえ!」突然拳骨が飛んで来た。「痛!」 「さっきの下着は如何した」「此れか」 「呆れ果てた者だ、恥ずかしく無いのか、うちを好きで好きでたまらん気持ちも分からんでも無いが、洗濯の済んだ下着等盗んでも始まるまいに。さぞかし今履いて居る下着が欲しいで有ろうのう、滲みでも付いて居たら、射精でもしてしまいよるのか、此の変態野郎!」二発目の拳骨が飛んで来た。「痛!」 「何と言う女だ、御前みたいな女と結婚したがる阿呆な男の顔が見たいわ」 「ほほう、じゃ鏡を見たら」「・・・」「隠してもうちと結婚したいと顔に書いて有るわ」 或る日、男の一人息子の少年法男は学校からの帰りパンツの中へ糞垂れしてしまったので有る。 「何か臭いな、あんた糞垂れしてしてしもうたんと違うか」運悪くも女に見つかってしもうたので有る。「そんな格好、お父ちゃんに見付かったら、一生頭が上がるらへんえ、うちに来」 法男はバスタオルを腰に巻き付けた丈でパンツが乾くのを待つ間、台所で夕食の用意をして居った女の御尻をばかりを見て居るうちに何やら可笑しく成ってしもうて。 「あ、出てしもうた」「ええ、又、糞垂れしてしもたんか」「・・・」「小便垂れか」「・・・」 「堪忍、バスタオルを汚してしもうた」「ああん、気にしな、大人に成った証拠や」其れ以後少年は女の尻を触り捲くったので有った。「又、触り居ったな」何時もの騒動が又始まるので有った。 「もう堪忍出来へん、あんたのお父ちゃんに叱ってもらう」少年を捕まえてしまった。「堪忍してな」 「まさか、まさかあんたあそこの子と違やうやろな」 「法男、御前もパンツを拾ってしもたんか」「此の子は女の御尻を平気で触る痴漢じゃ」「未だ子供じゃないか」「呆れ帰った者達じゃ、親も親なら、子も子じゃ、嫁さんに逃げられるのも無理は無いわ」 「天下の大阪に女性専用車両如き物が出来るのも無理無か、世界に恥さらしじゃ」 「ええか、今度悪さをしよったら、小便を引っ掛けて遣るさかい、以後気い付けなはれ」スカートを捲くって見せる女。 「なんと言う女子じゃ、あんな女と結婚したがる阿呆な男の顔が見たい」「本真や親の顔が見たいわ」 或る日の事、滅多に病気に等成った事の無い男が病に倒れた、鬼の霍乱で有る。少年は途方に暮れ女に助けを求めた。 「どないしょう、お父ちゃんが病気やねん、救急車を呼ばんならんやろか」 女は往診して呉れる医者を探し、やっと医者が来て、注射を打ってもらっうと男の容態は急に回復に向かった。 「奥さん、寝汗は良く拭いて着替えさせる様に、其れから後で薬を取りに来る様に」「奥さんか?」 朝方に成って、女は看病疲れで死んだように側で寝て居った。日頃平気で暴力を揮う鬼女の様な女も其の寝顔たるや天女の如くで有った。男は抑制出来無く成ってしまって、女を犯してしまった。交接して居る最中に女は目を覚まし。ショックの余り、声も出ず小便垂れをしてしまったから大変な事に。 「小母ちゃんたら良い歳こいて、寝小便垂れしてしもたんか」呆れ帰る少年。 「如何して此んな悪さをしよるのか、私は其方にとって私は命の恩人の筈ではなかったのか」 「其んなにうちの事が好きで好きでたまらぬのなら、なぜ夫婦に成ろうと言い出せぬ」居直る女。 「小母ちゃん、泣かんといて、僕のお母ちゃんにしてやるよって」 「そやな、嘆いていてもしゃないな、法男ちゃん一緒に朝風呂に入ろか」 「ええ、小母ちゃんと一緒にか」「未だ、恥ずかしがる歳ではあるまいに、恥ずかしい所見せて上げる」 或る日、女は少年と手を繋いで歩いて居ると、人が何やら笑うので有った。 「手なんか繋ないで人が笑って居るで」「気にしな笑わしとき」二人の母子ごっこは未だ続いて居た。 「僕、最近便秘気味やねん、困ってんねん」「アロエの汁飲んだか」「あれは苦いし好き違うねん」 次の日曜日、女が自分のうちに帰るった時、泥棒と鉢合わせてしまって、犯人は牛刀で脅して居直ってしまった。 「小母ちゃん、やっとうんこがでたわ・・・」目無し帽の男が女を脅して下着を脱がして居る犯行現場を目撃してしまった少年はうちに逃げ帰って父親に報告した。 「何じゃあれは下着泥棒にしては大層な、機動隊まで来てるで、テレビ中継でもする気やろか」「下着泥棒ちゃうで、国際手配のテロリストの殺人鬼やがな、小母ちゃんが危ないで、何とかして助けて遣ってえな、僕も手伝うよって」「ロープさえ在ればな、屋上から降りられるのにな」元登山家では有ったが。 「僕、お母ちゃんが押入れの奥に隠して居ったのを見た事有るで、でも、落ちたら死ぬで」「御前の新しい御母ちゃんが殺されても良いのんか」 男はロープを蜘蛛の様に巧みに操り、屋上からベランダにスルーと滑り降り、たった三分で犯人を叩きのめしてしまった。御蔭で警察の射撃班の手元が狂って犯人は命拾いをした。蜘蛛男の一瞬の行為はテレビ中継されて全国に放映されてしまった。 「此の阿呆、呆け、粕、鼈、下着泥棒の事は黙って上げるよって、うちと夫婦に成るか」女は脅迫した。「お母ちゃんたら良い歳こいて、又、小便垂れしてしもて居る」呆れ帰る少年。 其れから何日か経った或る日、初老の紳士と淑女が揃って、如何やら夫婦らしい人が遣って来て。 「蜂に刺されても泣か無んだ末娘が初めて何やら泣きよる、如何やら恋をして居るらしい。男勝りの女で教育も行き届いて無いのが、親としては恥ずかしいが、恥を承知で願いを叶えて上げたいと思ってな。親馬鹿だと笑われても仕方が無いがな」 「お母ちゃんは今日も来て無いか、一体何処え行ってしまったやろ」女を捜し捲くって居る少年。 「息子さんですくか、今、お母ちゃんと」「良お春江さんには懐いでしまって」 「お父ちゃんたら、何しに来たん、なんぼ法男ちゃんのお母ちゃんに成りたくても、犯罪人の男とは夫婦には成れへんやろ」女は吐いてしまった。 「御前、やや子が出来たんと違うか」娘の母が聞いた。 男も子が出来てしまっては断る分けにも行かず、結婚する羽目に。 鬼女は生涯、夫の秘密事は他言しなかったが、法男の良き母と成り、三人の姉妹を産み育て、天寿を真っ当して死ぬ迄で夫の事を下着泥棒だと思い込んで居ったとか。いやはや呆れた果てた女で有った。 教訓、鬼女の天女の様な寝顔に騙されては成らじ。 2005−12−09−81−OSAKA |
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