尿瓶

 最近は骨董ブームでも有る。平和が長く続き、景気も良く成って来た為で有ろう。ガラクタ市で掘り出し物を探す人も多いが、目利きで無い素人は偽物を掴まされるのが関の山で有る。良男もそんな一人で有った。何度も詐欺に合い、偽物を掴まされても懲り無いので有った。
 良男は子供の頃、或る少女に初恋をし其の少女丈に悪さの限りを繰り返して居ったので有る。
「何でうちばっかりを苛める」と言っては泣く少女に。
「大きく成ったら結婚してやるよって、誰にも言うたらあかんで」と何時も口止めを言って居ったので有る。少女は約束を守り良男は親に叱られる事が一度も無いのを良い事に、度々少女に悪さを繰り返して居ったので有った。
 時が流れ、二人共縁談には縁が無く、婚期を逃しかけて居ったが、知人の紹介で見合いをする事に成って偶然再会したので有った。男は子供の頃の事等スッカリ忘れて居ったが、女は覚えて居ったので有る。 男の関心は専ら古い壷の事ばかりで有った。長年垂涎の思いで有った白磁の壷がやっと手に入ったらしいので有る。可也高価な買物で有ったらしい。古い壷と一緒に風呂に入ったりする程の骨董好きでも有った。
「是非、家に来て見て欲しい」と言い出して聞か無かった、如何やら女が気に入った様でも有ったが。
「もう遅い、今宵は家でゆっくりして泊まって行かれ、御父さまには断っといた、もう遠慮は要らぬ」
「御不浄に行きとうす」と恥ずかしくて言えなんだ女はズート我慢して居ったが如何にも我慢出来無く成ってしもうて立ち上がれ無く成ってしまったので有る。良男の大事な大事な白磁の古い壷に已むを得ず用を足してしまったので有る。事も有ろうに祖母に見られてしもたので有る。見てはいけない物を見てしまった祖母のトメは、思わず目を覆うて呆れ帰ってしまったので有る。恥ずかしさの余り暫し放心気味の女「雪子はん、今日は近くの神社でどんど祭りが有る。見に行って見ませぬか」
 女は尿の入った白磁の壷を座敷に残して近くの神社に、小正月の行事でも有る。家に帰ると。
「堪忍して、打っても良いけど、夫婦に成って上げるよって、誰にも言わんと居て」
「壷の中に・・・してしもうた」焙烙じゃ有るまいに女は尿瓶の代用に使ってしもうたので有る。
「何を寝惚けた事を言って居る、中に最初から何も入って居らぬ、ほれ見」壷を逆さまにして見せる男。「ええー」良男の祖母が始末をして呉れたので有ろう。
「何やら懐かしかったのう、夫婦の様な変な気に成ってしもうたのう。如何じゃ一緒に風呂に入ろうぞ」「其んな恥ずかしい事、うち・・・」「恥ずかしがる歳でも有るまいに」御尻を打たれてしもうた。
「御不浄に行きとうす」と恥ずかしくて言えなんだ女はじっと我慢んして居ったがとうとう又我慢出来無く成ってしもうた。
「如何なされた具合でも悪いのか」女は男の背中を流して居ったが突然湯船の中に飛び込んで御湯の中へしてしもうた。
「堪忍、夫婦に成って上げるよって誰にも言わんといて」
「してしもたんか」「わしもしてしまいたく成ってしもうたぞ」
 男は女の背中を流して居て突然抑制出来無く背中に小便を引っ掛けてしもうた。
「ああ、汚い。何でうちばっかり苛める」「結婚してやるよって、誰にも言うたらあかんで」と口止めを言うては後ろから悪さをしてまったので有る。本に子供の時の如くで有った。
 朝に成って。もじもじする女を見た祖母のトメは。
「其方は病気か、盛りでも憑いて居るのか、前なんか触り居って。其んなに憚りに行くのが面倒くさいかささと行ってこい。本に尻癖の悪い女子じゃ、壷にするわ、御風呂で垂れるわ、寝間で垂れるわ、呆れ果てた女子じゃ、親の顔が見たい物じゃ」女は御尻を打たれてしもうたので有る。
「心配致すな、其方の恥は家の恥、誰にも言わぬは」「見てしまったの」
「わてなら恥ずかしくて家に飛んで帰ってしまうがのう」
「うち達、夫婦の約束が出来て居るのよ」「あんな恥ずかしい事しょって結婚等出きる分け無かろうが」「結婚して上げると言ったのよ」「何時」「子供の頃だけど」「ええ・・・」
 女は小便を放いて居直ってしまったので有る。其の儘、押しかけ女房に成ってしまったので有る。
「又、古い壷を買いたいと思って居るのか、一体何個の壷を買ったら気が済むのじゃ」
「二度とは手に入らぬ一品じゃ。今買っとけば値上がり確実じゃ」
「古い壷等何の役に立つと言うのじゃ、尿瓶の代わりにしか成らぬでは無いか。又小便を引っ掛けたろか此の阿呆垂れ」「何て事を言い出すのじゃ、未だ結婚もして居無いのに、もう女房に成った積もりか」
「其方は私に打たれたいのか、其方が古い壷等に現をつかして居る内はやや子等出来る分けが無かろう、もっと真面目に気張りなはれ」「何て事を女子が口にするのじゃ」
 女は男と一緒に風呂に入り、一つ布団で寝て居っても男は何もしなかったので有る。
「雪子は腋毛を剃らんのか」「何の為に」「変な事に関心が有るのね」女は安心しきって寝て居った。
「又前を触って居る、其方は盛りでも憑いて居るのか、羞恥心は無いのか」男も呆れ返ってしまった。
 或る日の朝、男が便所でしゃがんで用を足して居ると女は駆け込んで来て、慌てた。
「朝顔に用を足してしもうたんか」「私が漏らすのを見たかったの、子供の頃とちっとも変わる無いわね呆れた」「まさか、まさか・・・」その、まさかで有った。豪い女が家にやって来てしもうたので有る。約束は守らなければ成らない物で有る。給料も取られ、賞与も取られ、小遣い銭にも事欠く始末で有った 高価な古い壷を買う事等、夢の又夢に成ってしもうたので有る。
 或る日、祖母が親戚の不幸で泊り掛けので出掛け、二人きりに成った日の午後の事、男は女が愛しく成って抱きすくめて接吻をした拍子に女は尿垂れをしてしまったので有る。「堪忍え」恥ずかしさの余り放心気味の女。運悪く祖母が予定より早く帰って着てしもうた。
「雪子はん、又小便垂れしてしまいよったんか」祖母が呆れ帰り乍も台所の床を拭いて遣って居ると、良男の母も遣って着てしもうて。
「御婆さまとも有ろう人が到頭老耄されてしもうたか、こんな処で尿垂れしてしまわれて」
「わてと違うがな。良男の押し掛け女房の雪子じゃがな」「何んやて」
「雪子はんは何をして居る、何処に居る」「今は子作りの最中じゃけん」「何んやて、此の真昼間にか」 何やら奥からよがり声が
「悪い時に来てしもうた、又、出直すよって」良男の母親は呆れ返って帰ってしもうた。
「何で、うちばかりを苛める」「御前が好きで好きで堪らん、結婚して上げるよって誰にも言うたらあかんで」相変わらずの男で有った。
 男は女が愛しく成ってしまい犯してしまったので有る。女の大事な大事な処女の壷は壊されてしまったので有る。其の内、女の御腹が膨らんで来て、やっと男は責任を取って夫婦に成る事を心に決めたのでは有ったが、古い壷を買いたい悪い虫も又騒ぐので有った。
「又、悪い虫が出たのか、えいかげんに目を覚ませ、古い壷等、尿瓶の代わりにしか成らぬでは無いか、又小便を引っ掛けたろか、此の阿呆たれ」相変わらず減らず口を敲く下品な女で有った。
 女は男の子を産み落とした。男の子はとんでもない腕白な元気の良い子に育ち、又悪さを或る初恋の女の子に丈、し出したので有る。歴史は繰り返されるので有った。
 女と言う者は釈迦も孟子も孔子もひょこひょこと生むので有る。
 子供で有っても迂闊な約束はすべきでは無い事を肝に命じるべきで有る。


            2006−01−20−92−01−OSAKA



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