赤面地蔵

 むかし、むかし、あるところに、与太郎と言う、それはそれはなまけものの男が住んでおったそうな。空をながめては嵐に成るといっては、漁をなまけておったそうな。それが又、良く当るのも不思議であった。そんな日は、昼間から酒を食らって昼寝をしておったそうな。厠に行くのも面倒なのか、いつもそのへんで用をたしておったそうな、別に女子に悪戯をするわけでなかったので、村人の誰れもは見て見ぬ振りをしておったが。悪戯がこうじてか事も有ろうに或日、道端のお地蔵さまに小便ばひっかけてしもうたのである。 「こら、何て罰当たりな事をするか。お地蔵さまに。」とうとう婆さまに見つかってしもうて、尻ぺたが赤く成る程ひっぱたかれたそうな。
 「ほんに、罰当たりな事をする者もおるもんじゃ」挨拶代わりに村人はそう言ったそうな。その事が有ってからである。あれ程、豊漁が続いていたのに、急に魚が取れんように成ってしもうた。
 「お地蔵さまの罰が当たってしもうた」漁によって成り立つってた漁村である。魚が取れ無くては、生活が成り立た無いのである。「困ったもんじゃ」村の漁師達は網元の家に集まって色々と相談したそうな。
 「与太郎の言うように、地震でも来るべか。」「地震の後には津波がくることもあるそうな。・・・」
 「高台迄逃げれば大丈夫だが、肝心の何時来るかがわからねえー。・・・」
 「与太郎に相談して見るべか。・・・」
 「おまえは、あほか,こんな席で与太郎の名を出しおって・・・」
其れを聞いていた村一番の年寄りの爺さまがむかし話を始めた。・・・
 「大地震、大津波が来る前にお地蔵さまの顔が赤く成ると言う噂を子供の頃聞いた様なきがする・・・」その話を後で聞いた、与太郎は。
 「何、地蔵の顔が赤う成るう、そんなあほな・・・」一人笑いころげ廻ったそうな。
 更に何日も不漁の日が続き村八分同然に成ってしまった与太郎は、とんでもない悪戯をお地蔵さまに、又してしまうたのである。二度までもお地蔵さまに狼藉をしてしまうたのである。姉さまの化粧箱から紅をくすねて、夜中に事もあろうにお地蔵さまの顔を赤く塗ってしまうたのである。朝になって・・・。
 「大変だー、お地蔵さまにの顔が赤く成ったぞー、大地震が来るぞ、大津波も来るべ」与太郎は、余りに大騒ぎに成ってしまったので、自分だと言い出せ無く成ってしまうた。与太郎以外の村人は持てるだけの物を持って、高台まで逃げてしまうた。何時も与太郎のおなかを座布団がわりしていた猫も居ない、そう言えば煩く吠える隣の犬も吠えてい無いひらき直った与太郎は座敷に大の字に成って昼寝を決めたこんだ、烏がなにやら不気味に騒いでいる。しばらくして弥太郎はうとうとしだした時。夢枕にお地蔵さまが現れ。
 「そなた一人だけを死なせるのは余りにも偲び無い、今すぐ高台まで逃げるが良い。」 「そんな、あほな」一度は迷った与太郎だが、又ふて寝をしてしまうたそうな。半時ほどして、天地がひっくり返る様な天変地異が起こったのである、地震である。与太郎は運良く転がるように、門に飛びだした。村の何軒かの家が倒れてしもうた。ほどなくして海の沖の方を見ると、まるで山の様に盛り上がった大波が浜に迫っていたのである。「そんなあほな・・・」二度、三度と襲う大津波で村の何軒かは流されてしまったのだが、お地蔵さまのおかげで与太郎一人を除いて、村人全員助かったのである。
 「とにかくも良かった、良かった・・・」村人は胸を撫で下ろしたのであった。
村人は 恩有るお地蔵さまを探し廻ったのでしたが、どこにも見あたらなかったそうな。  その後は、又、魚も以前の様に取れる様に成り、家も建て替えられ。村は元どうりに成り与太郎の事など忘れかけていたとき、漁をしている網の中に何かが掛かったのかなかなか引き上げられ無かったとか。やっと引き上げると、なんとあのお地蔵さまでした、こんな所まで流されたのでした。村人は小さな祠を建てて、其の後は大事に大事にお地蔵さまをお守りしていったそうな。その後長い長い間お地蔵さまの顔は赤く成る事は無かったのですが、そろそろ赤く成る時が来るかもしれません、充分に備えはしておきましょう、そろそろ・・・
           ( 或る昔話より オリジナルでは無い)

                  HOME
               −−戻る 次へ++