夢現

 大学生の勉は勉強好きで有った。食事中も書物を放す事は無かった。恋愛等した事等一度も無かったので有る。或る日曜日に自宅の近くの公園のベンチで書物を読んで居ると、エプロンを掛けた買い物籠を提げた変な女が二三度行ったり来たりして居ったが急に近づいて来て。
「あんた、勉ちゃんと違うか」幼馴染の春子で有った。一度結婚に失敗して実家に出戻て居ったので有る 淫乱な性格で不義の為に離縁されてしまったらしい。浮気をしたので有った。
「あんた、未だ働いてへんのか、落第でもさせられてしもうたんか」勉は苦学生で生活に困って居った。「喉が渇いたは、御水を御馳走して」女が座敷で大の字に成って横に成って居ると黒猫が何処からか遣って着て、女の御腹の上に載ってしまた。「此の黒猫たら、厚かましいわね」女は厚かましく台所を覗いた「汚な、やもめ暮らしに蛆が湧くて真の事やね」「尿がしたく成ったわ、御便所かして」女は下品で有った。一人暮らしの勉は女が幼馴染で出戻りで有る事を良い事に恥を忍んで、食事の用意をする時間が惜しい、勉学に没頭したいと頼み込みんだら、「ええわよ」女は別段嫌がらずに其の申し出を了解したので有った。二三日して女が遣って来て居ついてしまった。黒猫も直ぐに懐いだ。女が御三度や掃除、穢れたパンツも嫌がらずに洗濯をして呉れて、勉学も進む筈で有ったのに、淫らな格好の儘、周りをウロウロされ気に成って一向に勉学は進ま無かった。
 夏で有った。勉は偶に遣って来る煩い蚊を嫌って、古い麻の蚊帳を未だに吊って居った。夜中に猫が遣って来て中に入りたがるので有った。此の夏に蚊帳の中にへで有る。或る夜の事、酷い嵐で雷鳴が轟いて女は怖がって勉の蚊帳の中に逃げ込んで来て、勉に抱き着いて怯えて居った。其の夜、勉は淫らな夢を見てしまったのだった。明け方に成って目が覚めたら、女の御乳を触ってしまって居った。
「何時迄御乳を触って居るのじゃ、他にする事は無いのか」
「其方は腋毛は剃らんのか」「何の為に」「尿がしたく成ったわ」と言って女は起きてしまった。
 朝に成って、朝食を前にして。
「阿呆、御乳なんか触り居って、学問への志は何処へ行ってしまったんじゃ」勉は叱られてしまった。
 秋で有った。女は給料日丈は奮発して夕食を作って呉れた、其の日丈麦酒が食卓に付いた。夜中に女は一人寝は侘しいと言っては勉の布団の中に忍んで来た。勉は又淫らな夢を見てしまった。明け方に成って目が覚めたら、女の御尻を触ってしまって居った。
「何時迄御尻を触って居るのじゃ、他にする事は無いのか」
「其方は腋毛は剃らんのか」「何の為に」「尿がしたく成ったわ」と言って女は起きてしまった。
 朝に成って、朝食を前にして。
「阿呆、御尻なんか触り居って、学問への志は何処へ行ってしまったんじゃ」勉は叱られてしまった。
 冬で有った。初雪が珍しく降った。雪夜には猫は矢鱈布団の中に入りたがる物で有る。御正月の休み迄勉強する学生も少ない。勉は女と初詣に出かけた。珍しく和服を召した女は素敵でも有った。女は夫婦に成った様な変な気に成ってしもうた。尿がしたく成った女は家に着くなり便所に駆け込んだ。夕食には珍しく御銚子が一本付いた。夜中に猫の様に女は一人寝は寒いと言っては勉の布団の中に忍び込んで着た。其の夜、勉は又淫らな夢を見てしまった。明け方に成って目が覚めたら、女の陰部を触ってしまって居った。
「何時迄おそそを触って居るのじゃ、他にする事は無いのか」
「其方は腋毛は剃らんのか」「何の為に」「尿がしたく成ったわ」と言って女は起きてしまった。
 朝に成って、朝食を前にして。
「阿呆、おそそなんか触り居って、学問への志は何処へ行ってしまったんじゃ」勉は叱られてしまった。 春で有った。桜も満開を過ぎ桜吹雪が舞って居った。勉は大学を優秀な成績で卒業出来、或る大企業の研究所勤務が内定した。春子の御蔭でも有った。夜中にやや子が欲しく成ったと言っては女は勉の布団に忍び込んで着た。勉は又淫らな夢を見てしまった。明け方に目が覚めたら女を抱いてしまって居った。
「何時迄私を抱いて居るのじゃ、他にする事は無いのか」
「其方は腋毛は剃らんのか」「何の為に」「尿がしたく成ったわ」と言って女は起きてしまった。
 朝に成って、朝食を前にして。
「阿呆、其方は子供の作り方も知らんのんか、何の為に学問をして居ったのじゃ」叱られてしまった。
 卒業後も勉は禁欲主義者で猛勉家で有った。女とは一度も交わった心算は無かったのに、女の御腹が膨らんで着た、如何やらやや子が出来たらしい。勉は寛大で有った。女の淫乱な性格を許して居った。子供は自分の子として育てる心算で有った。女と結婚式を挙げ、籍に入れた。やがて女は女の子を産み落とした。そうは思ったが女の不義の子を一生育てて行かなければ成らないと思うと憂鬱でも有ったが。女は悪びれた処など皆無で有った。強かなのか、淫らな格好をしては勉を挑発する毎日で有った。
 何年か経って、女とは一度も交わった心算は無かったのに又女の御腹が膨らんで着た。如何やらやや子が又出来たらしい。勉は寛大で有った。女の淫乱な性格を許して居った。やがて女は今度は男の子を産み落とした。子供は自分の子として育てる心算で有った。そうは思ったが女の不義の子を又一生育てて行かなければ成らないと思うと憂鬱でも有ったが。女は悪びれた処など皆無で有った。強かなのか、淫らな格好をしては勉を挑発する毎日で有った。黒猫も歳老いて膝の上で微睡む事が多く成った。
 或る歳の年末の賞与の支給日、女は毎度の如くに夕食に腕を振るった。久し振りに食卓に御銚子が一本付いた。夜中にもう一人やや子が欲しいと言っては勉に身体を摺り寄せて着た。勉は又、淫らな夢を見てしまった。明け方に目が覚めたら女を又抱いてしまって居った。其の時初めて夢現で悪さをしてしまって居る自分に気が付いたので有った。夢じゃ無かったので有った。女は疲れたのか交わった儘寝てしまって居った。何時もの事でしか無かったので有った。やがて、又女の御腹が膨らんで着た、如何やらやや子が出来たらしい。
 春子が産んだ二人の姉弟は不義の子では無かったので有った。浮気はし無かったので有る。いやはや呆れた男も居った物で有る。
 男は改心し春子に感謝し生涯大事に大事にしたので有ったとさ。


            2006−02−18−103−01−OSAKA



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