銀杏泥棒

 銀杏の樹は他の樹とは一寸違う原始的な樹で、葉が扇子に似て末広がりで目出度く、県の樹にも選ばれて居る。大阪府や東京都、神奈川県の県の樹でも有る。街路樹にも利用される。巨木は滅多に見かけ無いが学校の正門の側に銀杏の巨木が有ったりして、思い出深い樹でも有る。秋には葉が黄金に色付き、落ち葉が黄金の絨毯を引き詰めた様に成る。多くの銀杏の樹が多くの銀杏の実を付ける。問題は其の特異な臭いで有る。梅の実と形は良く似て居るが匂いの好さは雲泥の差でも有る。秋には其の実が落ちて近隣住民を悩ます。街路樹が銀杏の樹の場合は災難でも有る。其の厄介物の銀杏の実では有るが、種は食用に成るので有る。炒って御八つにも成るし茶碗蒸しや土瓶蒸しの具にも成り、御飯に炊き込んっだりもする。薬効として夜尿症に効く。若干毒が有り、食べ過ぎには注意しましょう。歩道に落ちて居る、臭いうんこの様な臭いのする厄介物を拾っても文句を言う人も少ないが、市の街路樹の生って居る銀杏の実を捥げば泥棒で有る。窃盗罪が成立するので有る。
 其れを知ってか知らずか平蔵は市の街路樹に攀じ登るて、事も有ろうに何の罪の意識も無く平然と良い気に成って銀杏の実を捥いで居ったら、意地悪な女性の警察官に現行犯逮捕されてしまった。まるで犯罪者扱いで有った。生意気な女の警察官に憮然として居ると、パトロールカーが来てしまい、警察に連れて行かれてしまった。誰か引き取りに来て貰わないと返せ無いと言うので有る。平蔵は困り果て、変な女の和美に来て貰った。
「阿呆、銀杏何んか盗み居って。うちばっかし、何であんたの不始末の尻拭いばかりさせられないとあかんの。あんた、うちの事を嫁はんと間違ってんのんと違うか。
「堪忍、茶碗蒸しを御馳走する由って」茶碗蒸しの中に銀杏が入って居るのと居ないのでは雲泥の差で有る。銀杏が入って居ると、宝物を手に入れた様な得した気に成るのも不思議な話でも有る。
 茶碗蒸しが出来る迄、和美は座敷で新聞を大きく広げて暇潰しに読んで居ったら、猫が遣って来て背中に載りよるので有った。「あんたも厚かましいわね、初めての御客の背中に載ったりして」
「あんた、茶碗蒸しは好いけど、御飯は炊いたんか」「饂飩の玉が有るよって、炊かなんだ」
「饂飩に茶碗蒸しか変なの」「出来たぞ」
 和美は平蔵の作った茶碗蒸しを見て呆れ返ってしもうた。「茶碗蒸しの中にうどんの玉を入れてしもうたんか。不精も好い処や」「美味しければ好いねん」
 変わった美味しい茶碗蒸しを頂いて気を良くした女は次の休日も遣って来ては勝手に上がり込んだ。
「銀杏泥棒は居てるか」                                    「あんた、又、銀杏泥棒してしもうたんか、銀杏の臭いがするで」「糞垂れしてしもうたんか」「屁を放いた丈じゃが」
「もうはしたない、美人の前でおならなんか放いて」
「あんたの変な茶碗蒸しの作り方を教えて貰おうと思ってな、あんたの好きな銀杏と卵と饂飩んの玉を買って来たえ」何やら泊まって帰る積りらしい。
「なあ、あんた、うち小遣いに困ってんねん、御尻を触らせてあげるよって小遣い廻してもらえへん」
女は甘えた。「御尻を触っても叱ったりせぬのか」「こら、御尻は触らしてあげると言ったのに何処迄触りよるか、この阿呆垂れ」男は又叱られてしもうた。しかし、小遣いを貰うと急に仲良しに成ってしもうた。
「給料日が待ちどうしいわね、御三度に着てあげるよって、もう銀杏泥棒はしなや」もう夫婦気分で有った。「給料日には御乳を触らしてあげるよって楽しみにな」給料を何やら一人占めする気らしい。
 次の土曜日に又遣って来て、大門の横の潜戸で美人の女と鉢合わせてしもうた。
「銀杏泥棒は居てるか」と言って勝手に上がり込んで来た。
「又銀杏泥棒をしてしもうたんか、隠しても臭うで、又おならを放いてしまったんか」
「分かれた女房に首を絞められて糞垂れしてしもうた」男は子供見たいに泣き出してしもうた。
「良い歳こいて女に泣かさたりして、うちがあんたの下の世話までせなあかんのんか」
「しっかりせー」風呂場に連れて行き何やらもそもそ遣り出した。
「和美」男は催してしまい女を後ろから犯してしもうた。
「これ、悪さをするで無い、今何をして居るのじゃ、盛ってしまって居るのか」
「阿呆、悪さをしおって、うちらもう夫婦に成ってしもうたんか」
 二人は背中を向けて座敷にへたり込み悲嘆に呉れて居ったら、男の子が遣ってきてしもうた。
「御父ちゃん」「太郎か」
「御母ちゃんに見捨てられてしもうた。御母ちゃんに男が出来てしもうた」
「あんたの子か」唖然とする女。
「うちがこの子の継母に成らんならあかんのんか」
 次の土曜日に和美は女の子を連れて遣って来てしもうた。
「小父ちゃんが私の新しい御父ちゃんか」小生意気な女の子で有った。
「小父ちゃんを私の新しい御父ちゃんにしてあげても良いけど、小父ちゃんは真坂寝小便垂れはせぬか、此処丈の話やけど、私の御母ちゃんたらあんな可愛い顔して居て、寝小便垂れするねんえ、自分で放いと居て私が放いたと言っては御尻を打つねんで、私迷惑して居るねん」「美佳か、又人にしょうむない作り話を話して居るのんか」夕食も済んで。
「美佳、御父ちゃんに御風呂に入れてもらい、御風呂で尿垂れしたらあかんで」「太郎ちゃんは私と一緒に後で入ろな」もう母親気分で有った。
 朝に成って。
「あ、こら、寝小便垂れなんかしおって。あんたは、糞垂れはするは、寝小便垂れはするはどうしょうも無い男じゃのう、うち迄びしょ濡れでないか」男は御尻を打たれてしもうた。
 食事の最中に「な、言った通りやろ」と少女は耳打ちして言うた「美佳、又食事中に無駄口を叩いて御尻を打たれたいのか」「太郎ちゃん、うちら兄妹に成るねんえ、仲良うしよな、ほな遊びにいこか」
 何やら可笑しな事に成ってしまったので有る。其の内女にやや子迄出来てしまったので有った。
 女の遺尿症も銀杏の薬効で完治した。男は御尻を打たれる事も無くなった。少女は食事中に無駄口を叩く事も無く成った。女は毎年銀杏の実の生る時期に成ると亭主が又銀杏泥棒の虫が騒ぎ泥棒をしでかさないか気が気で無かった。銀杏の実は相変わらずうんこに似た臭いがするので有った。近隣住民の嘆きで有った。
 女はやがて男の子を産んだが自分の産んだ子はほったらかしで、長男の太郎丈を厳しく躾けたので有った。引っ叩いたりもしたので有る。



            2006−07−09−142−01−OSAKA



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