青い薔薇咲く。

 英語の辞書で「blue rose」(青い薔薇)を引くと、其処には「不可能・ありえないこと」と書かれている。誰もが作り出せなかったこの花を、サントリー等が遺伝子組み換え技術を使い開発に成功した。五千年も前から始まった薔薇の栽培に変革を起こそうとしている。
 2002年春、サントリー研究所で、五弁の花弁を付けた薔薇が咲いた。其の花弁の成分を分析した研究員は、結果に思わず興奮。青色色素「デルフィニジン」の含有量が略100%。不可能が可能に成った瞬間だ。其れから挿し木で数を増やし、鉢に植えられた世界初の青い薔薇が今年の六月末に登場した。
 薔薇には赤色やオレンジ色を作る「赤色遺伝子」は有るが、デルフィニジンを作る「青色遺伝子」は無い。多くの育種家が交配で青い薔薇を作り出そうとして来たが、青に近づけても本当の青さは再現出来無い。研究チームは遺伝子組み換え技術を駆使して、パンジーから抽出した青色遺伝子を薔薇に導入し、青い薔薇を作り出した。
 薔薇に青色遺伝子を組み込むには、薔薇の葉の切片をホルモンや栄養分を含む寒天に入れ培養、カルスと呼ばれる細胞の塊りを先ず作る。バクテリアに青色遺伝子を組み込んでカルスと共に培養し遺伝子を入れる。青色遺伝子の細胞だけを抽出し、別の寒天で培養すると芽や根が出て青い薔薇の花が咲く。
 生態系への安全性の評価等が終われば、青い薔薇は三年後には町の花屋に登場する。
 青色実現の鍵を握るデルフィニジンは、ウイスキーや烏龍茶に含まれるポリフェノールの一種。此れ等の製品を手がけるサントリーが青い薔薇の開発プロジェクトを始めたのは1990年。花ビジネスに本格的に参入した翌年だ。同社は遺伝子組み換え技術で青いカーネーションの開発に成功、97年から販売を始めた。この成功で青い薔薇の開発にも期待が高まったが、「青いカーネーションはペチュニアの青色遺伝子を使った。薔薇の場合はこの遺伝子だと駄目だった」と関係者の一人は打ち明ける。
 竜胆やラベンダーの青色遺伝子を使っても青い薔薇は出来なかった。「遺伝子を入れてから薔薇の花が咲くまで短くて半年かかるが、半年後にいつも溜息が出た」と研究員。其れでも開発を続けられたのは、同社の元会長が青い薔薇に強い思い入れが有ったからだ。 英国の国旗には赤、白、青の三つの色が使われ、それぞれイングランド、ウェールズ、スコットランドの三つの地域を象徴している。英国の国花は薔薇で有り、赤の白の薔薇は有るが青い薔薇は無い。ウェールズのラグビー選手は白い薔薇を胸につけ試合出来るが、青い薔薇の無いスコットランドの選手は出来無い。「ウイスキーの生地で有るスコットランドに恩返しがしたい」と元会長は話てていたと言う。
 同社の「青い薔薇」プロジェクトは終わった訳けでは無い、現在の物は青色と言っても青紫色に近い。更に濃い青色にしたいと言う。
 改良の道筋は既に立てて有る。竜胆やアイリスの様な青い花を咲かせる植物は、デルフィニジンがフラボン等他の無色の化合物との間で独特の層構造を形成している。更にデルフィニジンに特殊な糖が結合した構造が見られると言う。
 こうした構造を作るのに必要な遺伝子は既に分っている。サントリーは今後二年程度かけてこの遺伝子がうまく働く様にする。
 更に進んで青空を思わせる紫陽花や朝顔の様な色は実現するには如何すればいいか。二つの技術が必要だと言う。紫陽花は、根から吸収したアルミニウムがデルフィニジンとの間で特殊な結合をし、青みが増している。又、青い花を咲かす朝顔や露草等は、花の細胞内が弱いアルカリ性に成っている。此れ等を薔薇で再現出来れば、色合いが濃く成る可能性は有るが、必要な遺伝子は未だ発見されていない。
 切り花の市場規模は約55億本(2001年)で薔薇はカーネーション、菊と並ぶ代表的な存在。「唯一残る菊でも青い花を咲かせたい」と研究員は語る。

                (日本経済新聞より抜粋 オリジナルでは無い。)
    清楚な青い薔薇にも刺が有るので、取り扱いには充分に注意しましょう。




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