犬の字の女

 太郎と遠縁の娘の元子は元気一杯で有った。元子は子供の頃から女の子とは遊ばず男の子と同様に野を駆け廻り、草の上を転げ廻り、スカートを穿居て居る事も忘れ木に登り、雄牛にてんごしては遊び呆けて居ったので有る。
「又、元子に泣かされて帰って来たんか」「蜂に刺されたら、元子に小便引っ掛けるられてしもうた」
「情け無い男子じゃ、蜂に刺された位で、珍宝は付いて居るのか、偶にはいてこましたり」酷い母親も居った物で有る。
 遠い親戚の太郎の父と元子の父が曽祖父の五十回忌の法事の日に酔っ払ってか、太郎と元子を夫婦にしようと話しが着いてしもうた。許婚で有る。二人は庭で遊んで居った二人を呼び寄せ夫婦に成る気が無いか聞いた。
「うちが、太郎ちゃんのお嫁さんに成るのんか」放心気味の元子。                 「太郎ちゃんのやや子を産むのんか、うち恥ずかしい」「こら、何処へ行く」「一寸小便に」
 元子は学校の勉強もそこそこに太郎の家に入り浸り、母親から料理や裁縫の手習いを受けた、花嫁修業で有る。当の二人は仲が好過ぎてか喧嘩ばかりして居ったので有る。仲の良い友達も学校の卒業と同時に疎遠に成る物で有るが、元子は太郎の家と自分の家の区別が付かずか、勝手気儘、遣りたい放題に暮らして居ったので有った。余程居心地が良いのか座敷で大の字に成っては、御腹の上に猫を載せて昼寝をするのを唯一の楽しみにして居ったので有った。
 雛が居て、番いの鶏が見守って居て、猫が座敷の隅で鼠を食べ頭と尻尾を食べ残し、子犬の側に芋の皮を遣ったら親犬が我が子を噛殺した後に傷口を舐め、烏が死者を告げて啼き、蛙が時に雨を報せて鳴き、煩い蝉時雨の中で又外国で自爆テロで多くの子の母がが死んだと何時もの様にテレビのニュースが流れ、遠くの入道雲で不気味に稲光がし遠雷が轟き、太郎の母は急いで自転車で買い物から帰って来た。
 座敷で元子が何時もの様に大の字に成って昼寝をして居った。
「元子ちゃんか、又遊びに来て居るのんか、太郎は居いへんのんか、如何え、いっその事、家の子に成ってしまわへんか」母はからかった。
 或る日の事、太郎と二人で猫にてんごして遊んで居る時に、元子が屁を放ってしまい凄く恥ずかしがって顔を両手で覆うって居った。太郎は其れを見て居る内に元子が急に愛しく成ってしまい、行き成り座敷に押し倒してしまって、犯してしもうた。猫が何事かと怪訝な顔で二人を見て居ったが暫くして何処かへ行ってしまった。
「うち等、夫婦に成ってしもうたんか」放心気味の女。
 屁を放って夫婦に成ってしまったので有る。夕方に母が帰って来て。
「如何したん、二人揃って御雛さん見たいにすまして」「太郎、到頭いてこましてしもうたんか」相変わらずの母で有った。
「泣くな、痛かったんか」「うち、嬉しい」「元子ちゃん、今日は泊まって帰りや」

 夕食後母に太郎と一緒に御風呂に入る様に言われ恥ずかしがって居た。
「うち如何しょう、男の人の前で裸に何か成られへんわ、見たらあかんで」と言い乍。
「ああ、御免、おしっこしてたら遅成ってしもて」前を隠すのも忘れてすっぽんぽんに成って飛び込んで来た。
「あんた、何処を見つめて居るねんや、恥ずかしいや無いか」前を洗うも程々に御湯の中に跳び込んだ。「あんた、うち等もう夫婦に成ってしまったんえ、後悔してももう手遅れじゃ、この阿呆垂れ」
「良えか、うちの言う事を良く聞くねんえ、言う通りにしないと又小便引っ掛けたるよってな」
 怖い女で有った。脚の指で太郎の鼻を挟むてんごをするので有った。
「あんたの好きなおならが又したく成った」風呂の御湯の表面に手拭を広げ、泡を溜めて照る照る坊主を作って遊びよるので有った。呆れた女子で有った。
 夜も更けて。
「あんたのお母はんも、何考えて居るねんやろね、うち等を一つ蒲団に寝かして、間違いでも起きたら如何する積りなんやろ」元子は蒲団を敷き乍文句を言うた。
「一寸改まって初夜の挨拶をしたいので太郎ちゃんも此処にへたり」蒲団の上に手を差した。
「不束な嫁ですが、今後はお母はん、お父はんの言う事を良く聞き、子孫繁栄、家内安全、五穀豊穣に努め、日々精進し念願成就に努めとう御座居ます。願がわくばおそその前には御粗相をせぬ様に御手水に行かせて貰いたく存じます」「はあ」
「二人で何して遊んで居るの」と母。
「目出度や目出度や、明日の朝は赤飯を炊いて祝おうぞ」
「あんたのお母はん、何か勘違いなさってへん」                         
 朝に成って太郎は呆れ返ってしまった。女の寝相の悪さと言ったら。犬の字に成って寝て居ったので有る。太郎は悪戯半分に女の男の様な御乳を触ってしまって居った。
「何時までお乳を触ったら気が済むのじゃ、他にする事は無いのんか」
「なあ、あんた、洋画で気持ち良さそうに接吻して居るシーンを見掛けるが本当に気持ち好いねんやろか、してみて呉れへん」「そんな恥ずかしい事出来る訳が無いやろ」「なあ、してみてて」女は甘えた。
「こら、何処にする積りじゃ」「何処へ行く」「一寸小便に」

 未だ結婚式も挙げぬ内にやや子が出来てしまい、世間に恥ずかしい事に成った。二人は慌てて身内丈の結婚式を挙げた。
 御腹が大きく成っても元子の昼寝癖は治ら無かった。相変わらず座敷で大の字に成って寝るので有った 猫も大きな御腹の上には載り辛がった。
「あんた、あそこに接吻して」恥ずかしい病気が始まった。
 やがて、元子は女の子を産み落とし、近くの佐太天神宮に宮参りに詣でた。何やら自慢げで有った。
 飼い犬に手を咬まれる事有り、飼って居る烏に目を突付かれる事有り。親もやがて老耄し吾子も判ら無く成り、垂れ流しもするので有る。赤子は生まれて来た喜びで啼くが悲しくて泣いて居るとしか聴こえ無い。御乳を戴いた母を殺す少年が後を断た無い。元子なら母が倒れても尿糞の世話までして呉れそうで有った。新婚当時便所で屁を放いて、でにくがった女も、今や処構わずで有ったる。業とか夫の側へ来て放いてしまい。「ああ、又、御下劣な事してしもうた、あんたは御下劣な事はしたらあかんで」とやや子に言うので有った。 あれ程小さかった御乳もそこそこに膨らみ、母乳が良くでたので有った。しかし、子供を寝かしては自分も一緒に座敷で女だてらに大の字に成って昼寝をして居るので有った。
 猫が居て、犬が居て、烏が鳴いて、蛙が鳴き、蝉が鳴き、相変わらずの日々で有った。
 太郎は元子がスカートの乱れも平気で座敷で大の字に成って昼寝をして居るのを見る度に、心配事が無いのか不思議で有った。
 八月に成ると原爆慰霊が話題に成る。原爆、水爆はとっくの昔に廃絶さて居る物と思って居ったら今だに在るので有る。人類を何回も滅亡させても未だ余る量で有る。未だに世界には戦争状態に近い紛争が後を絶た無い。特攻隊で多くの若者が散って行き、日本に原爆が落とされ、多くの人が殺され、戦争に負け、無条件降伏をし、進駐軍が遣って来て、教育に口を挟み、教科書に不適切の箇所を墨で塗り潰さしたので在る。今迄偉そうに訓えて居った教師がで有る。政治家は掌を引っ繰り返した様にアメリカの言い成りに成ったので有った。其の時に押し付けられた事を上げ日本国憲法を改悪しようと言う目論見すら有る。年少者の親殺しが後を断たず、教育の荒廃を利用して教育基本法も改悪し戦争が自由に出来る、愛国心の名目で死に急ぐ若者を増やし、憲法改悪の布石を作る為で有る。国民投票法の改悪が其れを示唆して居る。彼れ程反対した消費税率も又又引き上げられ10%にも成りそうで有る、一割で有る。10兆円の買い物なら1兆円の消費税で有る。年金も減らされ、医療負担、国民負担、増税が後を断た無い。仕事も本人の気持ちを無視しして配転、出向、出張が平然と行われ。出たくも無い組合の決起意集会に駈り出されるので有る。詐欺紛いの電話、怪しげな請求書、何も得をして居無いの解約の為の請求が有ったり、注文もして居無い商品が送られて来たり。女性専用列車が出来、歩道で自転車にぶつかりそうに成って、もう、糞垂れと女に言われる時代で有る。
 元子は次々に子を産み落とし。子供の世話に追われ乍も、相変わらず座敷で大の字に成って昼寝をし居るので有った。相変わらずで有った。
太郎は一度、座敷で元子の様に大の字に成って昼寝をして見たいと思って居ったが、死ぬまで実現しように無かった。





            2006−07−30−150−01−OSAKA



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