裸足の花嫁

 毎年、夏に成ると、蜂に刺されて病院に運ばれる人が何人も出る。刺されると特別に痛く腫れ上がるので有る。命を落す人すら居る。日本では蝮と同様に蜂も注意の要する生き物でも有る。蜂の体は黄色と黒の警戒色で近付くなと言う知らせでも有る。無理に払うと攻撃と解釈され集団で襲って来る場合も有るので注意が必要。巨大な蜂の巣が思わぬ軒の下等に有るのを発見して唖然とする人も多い、変に突付いて刺激して刺されたら大変で有る、専門家に任すのが一番で有る。人も蜂も寝静まった真夜中に、宇宙服の様な完全防御の防御服が必要に成る。入り口から殺虫剤を一気に注入し、口を塞ぎ袋で包み込み一網打尽にしてから巣を叩き落す必要が有る。蜂の巣が良く出来る年は猛暑に成ると言う言い伝えが有る。蜂には夏の気象が本能的に予測出来るので有ろうか。其の年も蜂の巣が多く出来、夏は連日気温が35度を超える過酷な酷暑の日が何日も続いた。短い空梅雨が終わった後は一滴の雨も久しく降って居無い。溜池の水も底を尽き底の泥も乾き罅が入って居った。琵琶湖の水位もマイナスで下がりぱなしで有った。
「あんたは何時も帰りが遅いけど、真逆サービス残業や風呂敷残業をして居る訳や無いやろな、過労死したら如何する気や、庭木に水を遣る時間も無いのんか、庭木が余りに可愛そう、枯れそうで無いか。この無精者。何やたっら、うちが水遣りしたろか、勝手に庭に入っても良いか」女は見るに見かねて朝晩に勝手に庭に入っては水を遣って呉れた。御蔭で庭の木樹や苔は生き生きとして居った。
 或る日の日曜日の夕暮れ時に、何時もの様に水を遣り帰ろうとした時、ふと座敷を覗くと男が御腹に猫に乗られて昼寝をして居った。「あんた、良い加減にしや、昼寝をする間が有んねんやったら、自分で水位遣ったら如何え」「あんたわ、日曜日に迄うちに水遣りさせて好い気に成って居るのん違うか、偶には白湯の一杯位御馳走しようと思う気は起きんのか」「白湯位なら何ぼでも」女は四這の儘座敷に上がり込んでしまった。「何で家の猫が此処に居るの」「時々遊びに来よる」「厚かましい猫や事」
「畳敷は好いな、私も横に成ろうと」「此処は静かで好いな、お姉ちゃんの小言も聞かんで好いし、極楽浄土見たいや」「あんた、何処見てんねんや、あんたも好きやねえ、この大阪に女性専用車両が走って居るのも無理無いわ」「あれ、嫌やわ、こんな時におしっこしたく成って来たわ。御水を撒くと決まってしたく成るわね、条件反射かしら、お手水は何処」「雪子さん」「急に如何したん、変な事したらお姉ちゃんに言い付けるで」男は雪子の姉の夏枝に惚れて居ったのに夏枝は他の男と結婚してしまったので有る。妹も姉の顔に良く似て居ったので有った。接吻等された事が無いのか、雪子はショックの余り我慢して居た尿が出てしまったから大変な事に。「ああ、如何しよう、おしっこを放いてしまった、結婚してあげるよって誰にも言うたらあかんで、堪忍え」と言って顔を両手で覆うって恥ずかしがって家に逃げ帰ってしまった。
「困った女子や、庭の植木の水遣りは恃んだが、こんな処で水遣りされては困るんやけどな」男は何やらぶつぶつ言乍、廊下の床を雑巾掛けして居った。猫は近寄って来て一寸臭いを嗅いで何処かへ行ってしまった。間の悪い時に、母が何時もの様に又又見合い写真を持って遣って来た。「あらあら珍しや、雑巾掛け等しよって到頭嫁を貰う気に成ったか」見合いの女は美人では有ったが何やら気の強い女の様でも有ったが、男ももう歳で有ったので贅沢も言ってられず、見合いをする事とあい成った。
 或る吉日に近くの料理屋で見合いをした。女も男が気に入ったのか近くの佐太天神宮に御参りしましょと言い出し、髪を古風に結い和服で正装した女は何やら素敵で有った。帰りに便所に行きたく成り男の家に立ち寄る事に成った。女は余程我慢して居ったのか慎みも無く草履を揃える間も無くはしたなく便所に駆け込んだ暫くしてホットして出て来て満足げで有った。男も女が気に入ったのか、態々、取って置きの珈琲豆を挽き珈琲を淹れて持て成した。
「こんな時間に珈琲なんか頂いたら夜中に興奮してしまって眠れ無く成ってしまいますけど、折角ですから頂きますわ、御不浄が近く成るのも困りますけど」古風は西洋珈琲茶碗で畳の上に畏まって正座って美味しそうに飲んで居った時、間が悪い事に隣の娘が遣って来てしまい、鼻歌混じりで楽しいそうに水を植木に遣り出した。
「彼の御方は何方」「隣の娘さんです」「何で彼の御方が他所の御家の御庭の水遣り何か」「日頃、仕事に感けて水を遣る間が無いもんで」「御水遣りが何であんなに御楽しいの」「あんた、うちと彼の女の二股掛けてんのんか」「私帰らせて貰います」「何も水遣り位で怒らんでも」「あんたに気が無くて、他人の家の庭に水遣り等する訳が無かろう、この阿呆たれ」突然女は怒って痛い拳骨が頭に飛んできて女は帰ってしまった。破談に成ってしまったので有る。
「聞いたえ、又又、見合いして断られたらしいね、あんたも阿呆やね、うちのお姉ちゃんへの初恋の思いが未だに忘れられへんのか、何ぼ思ってもお姉ちゃんはもう人妻やで」「なあ、お姉ちゃんを諦めてうちで我慢しとく気は無いか、好い事が有るかも知れへんで、うちこう見えても御飯が炊けるねんで、洗剤でお米を洗ったりせいへんで」女は鼻えを高くして自慢げに言った。「又、見合いをして、恥を掻く気か」女は素足を奇妙に使って男のズボンの裾を挟み引っ張って催促した。結婚の叩き売り大安売りで有った。男も男で又催してしまい迫ってしまった。「又、変な事したら、おしっこ引っ掛けるで」とスカートをたくし上げたので有った。呆れた女で有った。
 或る休日の珍事で有った。女が何時もの様にに水を遣って入ると事も有ろうに大きな蜂が飛んで来て女のスカートの中に入り込んでしまった。女は慌ててスカートを捲くり上げて蜂を払い落とそうとして、内腿を刺されてしもうたので有る。女の悲鳴で「如何した」「蜂に刺されてしもうた」男が内腿の刺された所の毒を吸出して居る内に又催して来てしまった。「蜂て、刺したら自分も死ぬのん解って居て刺すねんやろ、何で」「あんた、又、変な事為と成ったんと違うか、変な事したらたらお姉ちゃんに言い付けるで」男は悪さをしようとして又小便を引っ掛けられてしもた。「結婚してあげるよって、誰にも言うたらあかんで、堪忍え」又、両手で顔を覆う程恥ずかしがって家に逃げ帰ってしもうた。
 やがて季節が廻り、一雨毎に気温も下がりだし、植木の水遣りの必要も無く成って、雪子は唖然としてしまった。隣に行く口実が無く成ってしまったので有る。雄猫のミーの睾丸を弄るっては悶々と日々を過ごして居った。仕事も見つからず、小遣いも底を尽き、服を買う御金も無し。妹の雪子は姉の夏枝の御古の服を貰っては着て居ったので有る。或る日、押入れを片付けて居ったら姉のウエディングドレスを見つけ出し、着て見たく成り着て居ると姉が帰って来てしまい、見つかってしまい。日頃我慢をして居ったが到頭堪忍袋の緒が切れてしまった。掴みやいの喧嘩に成り、蜂の巣を突付いた様に成ってしまった。
「もう、許さへん、内の中を勝手に遣りたい放題に掻き廻して」擂り粉木棒で追い廻され、堪り兼ねたたウエディングドレスの花嫁姿の女はスカートを露に繰上げて裸足の儘、隣の五朗の家に逃げ込んで、五郎に後ろから抱き付いた。「助けて、もうお姉ちゃんの居る家には帰れ無い」と言い出した。気弱に成って泣いて居った。
「いい加減にお姉ちゃんの事を諦めて、うちで我慢しときて」「好い事が有るかも知れへんで」「お乳を触っても、お尻を触ってもしばいたりせいへんよって」「こんなに頼んでもあかんのんか」「良い加減に、もう観念せ」雪子は五郎の御腹に馬乗りに成り結婚迫った。男の胸倉を摑まえて力んだ拍子又又尿垂れをしてしまったから大変な事に。間の悪い時に五郎の母が遣って来てしまい、見られてしまった。
「まあ、元気な娘御や事」「間の悪い、豪い時に来てしもうた、お手水だけ借りて、さっさと退散しょ」母者も催して居ったので有った。便所からから出て来た母は野獣の様に後ろから盛ってしまって居る五郎を見てしまって唖然としてしまった。恥ずかしいがって顔を両手で覆ってしまった。
「あかん、あかん、お母はんに見つかってしまって居るで」男は途中で止められ無いのか女を犯し続けてしまった。
「五郎、偉いこっちゃ、女といちゃついて居る場合と違うで、便所の庇の下にとんども無い大きな蜂の巣が在るで、何とかせんと便所にも行かれへん様うにに成ってしまうで」「こら五郎、好い歳放いて尿垂れしてしもうたんか、ズボンが濡れ居るでないか」「こんな好い女が居って、わてに見合い話を用意させて居ったんか、好い加減にしやこの阿呆垂れ」突然痛い拳骨が頭に飛んで来た。「おしっこ垂れする様な花嫁やけど、我慢して嫁に貰っていな、もううち我慢できへん、やや子が欲しいねん、もうお姉ちゃんの居る家には帰りとうは無い」と駄々を捏ねて五郎の家に居座ってしまった。
 二三日後に女は役所に出向き何とか蜂の巣を駆除して貰えるように泣き付いた。「便所にも行け無い様に成ったて、放いていまったら如何する気や」と職員に詰め寄ったので有った。もう女房に成った気に成ってしまって居った。四五日してやっと真夜中に職員が専門業者を連れて遣って来て呉れて、宇宙服の様な防御服を着て強力な殺虫剤でゴソゴソ何やら遣りだした。駆除は思った程で無く無事に済んだ。
「奥さん、此処に判子を」「奥さんか」五郎が結婚するとも言わぬのに、家に居座ってしまって遣りたい放題遣りだした。女は小便を放いて女房に納まってしまったので有る。強かな女で有った。やがて雪子はやや子を宿してしまって、五郎は仕方無しに籍を入れ、内輪丈で式を挙げた。雪子は相変わらず庭の木樹に水遣りが好きで有った、隣の姉の夏枝の雄猫のミーも家に居付いてしまい、五郎のお腹の上で昼寝をして居った。やがて雪子は玉の様な元気な男の子を産み落とし、近くの佐太天神宮に御宮参りに詣でた時は自慢げで有った。母も相変わらず口達者で有った、何かと口実を見つけては遣って来ては孫に会いたがるので有った。天下泰平で有った。



            2006−09−16−159−01−OSAKA



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