鬼畜夫婦の封印

 むかし、むかし、あるとことに、それわそれわ幸せな二組の夫婦が居ったそうな。夫同士、妻同士は子供の頃からの親友同士で有った。二組の家族は家族包みの付き合いをして居ったそうな。
 しかし、何故か子が出来なかった。其の親友同士が友情を裏切って、不倫の旅の最後に心中をしてしまったので有る。信じ切って居た親友に裏切られ、二人は復讐をする丈の為に夫婦に成ったので有る。
「此の最、足り無い所を補い合い乍やって行きましょう」親友の妻は嫌とは言わ無かったので有る。
 男と女は互いに復讐に燃え、鬼畜の心に成ってしまた。子供を儲け、最愛の子を殺す為丈の為に。
 鬼畜夫婦は世間を欺く為に、幸せを演じ続けたので在る。女は十人の子供を生みたがったが、九人目を産んだ時には、最初に生まれた娘に縁談話が持ち持ち上がって来た。其の時が近づきつつ有ったので有る 娘はたった一度の見合いで若者に一目惚れしてしまった。
 娘のらんは或日両親の秘密を知ってしまい、心は千路に乱れてしまった。愛しい我が子を殺す事で復讐を謀ろうとしょうとして居るのを知ってしまったので有る。我が子を殺す為に我が子を育てたのか。
 人に相談する分けにもいかず。娘は人知れず泣くので有った。
「そんなに悲しいのなら、無理に嫁げとは言わぬがのう」
 娘は覚悟を決めた、実行の日は嫁ぐ日と確信した。其の日は次第に近づいて来た。
 娘は若者をいかがわしい宿に誘い、操を捧げてしまう。
「此の様な所に誘って嘸かし端ない娘だと思って居るで有ろうのう、初夜まで待てぬ訳が有ったのじゃ」「何が有ったのじゃ」「今は言えぬ」
 自分はともかく幼子迄犠牲に成っては余りに惨い。親戚の家に預かって貰ったので有る。       春爛漫で在った。桜の花も桜吹雪と成って散り始めて居った。
 嫁ぐ其の日、花嫁衣装に着替えた娘らんは仏前に合掌し、何時もより長く何かを祈って居った。
 盛装した両親を前に娘は御別れの挨拶を。
「御父上さま、御母上さま、今日までの長い間、育てて下さった恩に報いる事も無く、嫁いでしまう不幸を御許し下さいまし。らんは嫁いだからには先様の御父上さま、御母上さまを真の父、母と思いとう御座居ます。さすればらんは死んだものと思って下さいまし」
「大層な」「隣村では無いか、何時でも戻ってくれば良いでは無いか」
「嫁いでから、殺されては先様に迷惑が掛かりましょう。出来ますれば嫁ぐ前に殺されとうございます」「何て事を突然言い出すのじゃ」
「らんは覚悟は出来て居りまする。死ぬのは恐くは有りませぬ。御母上さまに殺されたら本望で御座居ます」
「何とした」「其方、妾の心に鬼が巣くって居るのが何故分かった」
「余計な事を言い出さねば何もせなんだ物を」
「母じゃが鬼じゃと言う噂はやはり本当で有ったか」
「妾の秘密を知られてしもうたからには最早嫁ぐ事など叶わぬぞ覚悟致せ」「気でも狂うたか」「悟た様な口をききおって、何故泣かぬ、何故喚かぬ、命乞いをせぬ」「どうしやった」母は吐いてしもうた。
「つわりか、母じゃは本当の鬼じゃ、九人もの我が子を殺しても殺し足り無くて、又、子を産むのか」
「嫌じゃ嫌じゃ、もう此の様な地獄を見たくは無か、早う殺してたもれ」合掌して死を懇願する娘。
「もう良か、復讐をするなら儂を殺すが良い、娘には関係の無い事」「儂も母じゃと同じ事を考えて居った」「母じゃ丈で無く、父じゃ迄鬼で在ったのか。妾にも鬼の血が流れて居るのか」娘も吐いてしまった「其方までややが出来たのか。未だ婚礼もすんで居らぬ身だと言うのに」「なんぼ殺したくても、御腹のやや迄殺せぬぞ、妾は其処まで鬼には成れん」「止めぬか、其方が自害して何とする」「秘密を知られたからには最早生きては行けぬ」「もう良か、もうやんぴにしよう、此れは悪夢じゃ、皆夢を見て居るのじゃ、心に封印して、今見た事、聞いた事は決して他人に口外しては成らぬぞ良いな」
 娘は心を封印した儘、何事も無かった様に澄ました顔して嫁いでしまったので有る。
「ああー、ややさえ出来無ければ死ぬるのに」泣き喚く母じゃを見て居た父じゃは、何にを血迷うたか母じゃを犯してしもうた。
 母じゃは十人もの子を産み、娘達は嫁ぎ、息子達は嫁を娶り、心の封印は八十二歳で天寿を全うするまで解かれる事は決して無かったが、死の前日、子孫達に看取られ乍「御婆さま何か言い残す事は無かか」「言いたい事は山程在るがぬのう封印を解く訳けには行かぬでのう」「今更何を言いなさる」
「そうじゃのう、もう封印を解いても、罰は当るまいのう、恥ずかしいがのう、決して口外せぬと約束出来ますかいのう」「実はのう、彼の時、わては尿垂れをしてしもうた」
「御婆さまったら」呆れ返る孫達。
 何はともあれ、封印は決して解かれる事は無かったので有る。






              2005−04−25−26−OSAKA

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