尻を捲った女

 村一番の美人の娘桜は黄金に穂が実った、麦畑で急に小用を催し、我慢が出来無く成った。粗相は成らじと、矢庭に御尻を捲り暫しの間の至福の快感に浸って居た時に、運悪く五人もの学生達に見付かってしまた。若者達の憧れの娘の恥ずかしい姿を見て悪童達は催すのを抑制出来無く成ってしまった、五人の学生の内、碌で無しの一人を除いて、碌で無しは怯えてか、遺精を仕出かしたのか、役立たずで有ったので有る。
 娘は四人もの悪童達に輪姦され、やや子が出来てしまった。碌で無しの一郎は娘が身篭たのを知って、子供の未来を案じて、ひつこく結婚を求めてが、碌で無しの役立たずではと娘は悩み続けて居た。やがて、娘華子が生まれ世間の冷たい目に堪りかねた、学生達は学校を卒業すると直ぐに軍隊に入ってしまい、桜は復讐を誓っても実現する機会を失ってしまった。徴兵検査不合格の碌で無しは軍隊にも入れず、畑を耕し、肥やしを撒いて居った。家に嫁に来無いかとひつこく勧めたが役立たずでは話に成ら無かった。他の四人の男は其々名家の息子で有った。
 戦局は悪化し、四人の兵隊達迄戦地へ行く事に成り、其の輸送船が敵の魚雷を正面に受けて轟沈してしまた。四人の悪童に天罰が降ったので有った。桜は復讐の機会を失ってしまたので有る。
 娘の華子が学校に入学を前に、する程に大きく成った時、何を間違ったか碌で無しとの見合い話が持ち上がった。桜を不憫に思った学校の恩師が寺の和尚と相談し、離れの書院を借りて見合いを勧めた。寂れた古寺の書院には不似合いな見事な観音像が。矢庭に桜はちり紙を取り出し鼻をかんだ。
「観音さまの前ではしたない」と呆れる伯母。桜は復讐の矛先を変更したのか其れを受け入れた。何やら結婚して筋違いの復讐をする心算らしい。

 親から大きな田地田畑を相続し、暮らしに余裕も有ったが縁談に恵まれ無かった、一郎は相変わらず役立たずの碌で無しで有った。女は溜息を吐いた、戦争さえ無かったら、四人の凛々しい若者と恋愛三昧も出来たものを。碌で無しと結婚する羽目に。春には娘の華子が学校に行く、父親が居無ければさぞかし肩身が狭かろう。
 女は悲しく成って又、ちり紙を取り出し鼻をかんだ。
「まあ、はしたない事を」
「ションベン放いてこう、あんたも来」
「ええ、ションベンですて、下品な言葉を使ったりして」呆れ果てる伯母

「それにしても、麦畑で五人掛かりであんな悪さを仕出かして置き乍、抜け抜けと見合いをし遣ったか」尿を放き乍。
「華子ちゃんはもう直学校やないか、父親が居無いのが判ったら、肩身の狭い思いをする、贅沢を言わずに俺で我慢しとけ」連れ尿をし乍一郎。
「子供も作れぬ、役立たずの碌で無しでは一生結婚も出来まい、華子に目を着け遣ったか」
「私のした事じゃ無いが、一生掛かっても償いはする心算じゃ」
「あああ、他の男は凛々しい勇猛な兵隊に成ったのに、わては役立たずの碌でなしと夫婦に成らなければ成ら無いのか」嘆く桜。

「良いか、わての下品さに愛想が尽きても、其方から断っては成らぬぞ、気に入ら無ければわての方から断る」桜は釘を挿した。                                    
 口では文句百垂れ言い乍、一郎の家に付いて行った。
「呆れ果てた男じゃ、嫁を娶る気が少しでも有れば、掃除位して置くものじゃが、碌で無しは何時まで経っても碌で無しか」
「又、御手水に行きたく成った、御手水は何処へ」又前を押さえてモジモジと、桜はさっきから催しぱなしで有った。
 一郎は突然何を思ったか桜を座敷の上に押し倒し、おそそを弄り、口に接吻してしもうた。
「今、何をしようとし居ったんじゃ、真逆、わてを犯そうとしたで有るまいの、思わず御粗相をしそうに成ったぞ」
「又、悪さし居ったらションベン引っ掛けて遣るよってな、覚悟しや」
 女は御手水に駆け込んだ。
「あんたと夫婦に成って、一生虐めたる」女は復讐の為に結婚を決意したので有る。尻を捲くって居直り居座ってしまった。一郎の気持ち等聞く耳を持たぬ様で有った。座敷の真ん中で新聞を大きく広げて呼んで居ると裏の黒猫が来て背中の上に載った。
「此れ、猫、初めての客の背中に載るで無い、厚かましい」新聞には何時の時代も碌な事件が無かった。
 秋祭りで有った、或る日本晴れの日、渡御で神様の居無い筈の天神宮で何やら二人は祈るので有った。御輿の中の神様は石ころのところも在るそうな、御輿がひっくり返っては一大事で有る。小用を急に催した桜は慌てた。汚い裸電球の大便所が皆塞がって居た、何やらモジモジと淫らに前を押さえ。矢庭に御尻を捲って昔の小便所で一郎の側で立って小用をたしてしまったから恥ずかしい事に。
「観るで無い、恥ずかしいではないか」
「はしたない事をするで無い」一郎は桜の御尻を叩いてしまったから大変な事に。          「あんな悪さを仕出かして置き乍、わての御尻を叩くか」
「四人の悪友の大罪はあんたに一生掛かっても償って貰う、主人に遠慮して放きたい物も放けぬ様な人生は嫌じゃ、放きたい時に放、あんたの指図は受けぬ」

 桜は何を思ったか、二人の珍奇な夫婦生活が始まった、未だ結婚もして居無いのにで有る。一郎は相変わらず役立たずの碌で無しで有ったが、桜は遣りたい放題元気一杯で、相変わらず美人では有ったが下品で有った。

 季節が廻り、春真っ盛りで有った。桜吹雪が舞い、小川に花浮き橋を掛けて居た。桜は気を良くしたのか牡丹餅を作り出した。此の世には季節に縁って物の名前が変わる厄介な珍なものが有る。春の牡丹餅と秋の御萩で有る。日本の風流でも有るが、再放送の矢鱈多いテレビでは厄介な存在でも有る。再放送が丸判りでも有る。秋の新小豆は柔らかく粒餡でも美味しいが、一冬越した古小豆は昔は硬く成り、春と言えば漉し餡が主で有った。大皿に盛ると牡丹の花の様に見える事から、牡丹餅と呼ぶのは当然としても、秋の粒餡は萩の花に似て居るが、厄介なのは漉し餡も当然作られる。漉し餡を牡丹餅、粒餡を御萩に決めれば良いものを。言語の統一には百年掛かる。

「あんた、鼻水が落ちそう、かんで」牡丹餅を作ってる最中のでの話で有る、何やら汚い話でも有る。

「あんた、何処へ行くねんや」「ションベンじゃ」「わてもションベンしょう」
「あんた、うち、やや子がもう一人ほしゅう成った、頑張って見る気は無いのんか」尿を放き乍。

 暫くして桜の伯母が生意気な口煩い娘、華子を連れて遣って来てしもうた。
「あんたが、新しいお父ちゃんか、役立たずの碌で無しか、仲好うしょな」唖然とする一郎。
「一郎はんは、四人もの悪友の鬼畜の様な極悪所業の大罪を一生掛かって代わりに償うとは見上げた心掛けじゃ」と伯母。
「華子ちゃんは麦畑ではおしっこしたらあかんで」
「何で麦畑ではしたらあかんの」と華子。

「お母ちゃん、お父ちゃんが御風呂に入ったえ、一緒に入っておそそをしたら」
「此れ、華子、何て恥ずかしい事を口にするの」と叱る桜。
「八百万の神々に祈っても、おそそをせんとやや子は出来へんで」と諭す娘。
「そうやな、わても、一生に一度で良いから御粗相をしてしまう程気持ちの良い事して見たい」

 やがて、やや子が出来て、桜は玉の様な男の子を産み落とし、太郎と名付けた。一郎は役立たぬの碌で無しでは無かったので有る。或る吉日に二人は連れもって近くの天神宮に宮参りに詣でた。一郎は何故か誇らしげで有った、自分が産んだ訳でも無いのに。

 華子は学校を主席で卒業し、大学を卒業して教員試験合格し、地元の小学校の先生に赴任した、やがては女の身で学校長に迄成った。桜は主人の一郎を尻に敷きぱっなしで、元気一杯で有った。太郎は一郎に似てか、役立たずの碌で無しで有った。






          2007−10−27−270−02−01−OSAKA



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