家守の大間違い

 むかし、むかし、あるところに家守の仕事をして居った男が居ったそうな。権六と名乗る其の男の仕事とは、留守宅を火災や盗賊から守る大事な大事な仕事で有った。
 女は長旅に疲れ果て。我が家に戻る成り、座敷の上で大の字に成って横に成ってしまった。
「やはり、我が家が一番じゃ」
「こら。勝手に人の家に上がり込みよって、厚かましい女子じゃ」「女が又を開けて何とする」
「其方は何者じゃ」
「儂は権六と名乗る、家守じゃ」「守宮か」「守宮では無か、家守じゃ」
「御婆さまは何処じゃ」「あん、御前が御婆さまに言われて来た賄いの女か」「賄いの女では無か」
「権六とか申したのう、お風呂を沸かしてたもれ」「偉そうな口を聞き居る女じゃ、わしが水を汲んでやるでな、自分で沸かせ、風呂が沸いたら、晩飯の用意を致せ」「妾が風呂を沸かすのか、ご飯を炊くのか「何じゃ、此の飯は」「一寸焦げた丈じゃ、食べても死にはせぬは」「御婆さまも到頭、耄碌されたか」「なして」「それとも、儂に恨みでも在るのです有ろうか」「なしてか」
「御婆さまの病は重いのか」「たいした事なか、老人特有の只の氣鬱じゃ」
「来月に成るとのう御嬢さまが帰って来られる、其れ迄に、綺麗に掃除をしとかないとな、明日から大掃除じゃ」「其方は御嬢さまの顔は知らぬのか」「見た事は無かが、其れは其れは上品は方だと、御婆さまから聞かされて居るは、御前とは大違いじゃ、儂は風呂に入る」「妾より先に入るのか」「女は不浄だけん、男が先に入る者と決まってがに、晩飯の片づけを致しておけ」女は呆れかえってしまった。
 男の傲慢ぶりに呆れ果てる毎日では在ったが、大掃除も無事に済みほっとした或日、裏の窯跡で何にやらして居った、権六は急に腹具合が悪く成り、厠に駆け込もうとして、扉を開けて女が用を足して居るのを見てしもうたのである。女は恥ずかしいとこを見られてしまい失恋の踏ん切りが着いたので有る。
「権六殿は裏の窯跡で、一体何をして居るのじゃ」「御嬢さまは父上さまの血を受け継いで、焼き物にも興味が御有りと聞いて居る、窯を再建出来ぬものかと思案をして居る」「再建出来そうか、妾も焼き物を焼いてみたい」「其方もか」二人は泥だらけの毎日が続いた。
 そんな或日の事、急に空模様が可笑しく成って来た、雷の嫌いな女は蚊帳を吊って中に逃げこんでしまった。女は恐怖の余り男にしがみつくてしまうのだった。権六はそんな女が愛しく成ってしまった。
「こんな時に何をしやる」
「もう我慢が出来ぬ」「今は駄目じゃ、今は駄目じゃ、厠に行きたいのを恐ろしうて行けぬで往生こいて居る」「妾も我慢できんように成った」女が厠に立とうとした時、裏の合歡の巨木に雷が落ちて倒れてしもうた」女は尿垂れをしてしまい。男は恥ずかしさの余り放心状態の女を犯してしもうた。
「夫婦に成って上げるから、御婆さまににだけは言わ無いでおくれ」余程恥ずかしかったので有るろう。 窯もどうやら出来上がり二人は作品作りに取りかかった。「どうした又厠か、遠慮は要らぬ」
 女は吐いてしまった。
「御前は一寸太ったかいのう」どうやら子が出来たらしい。
「其れにしても御嬢さまの御帰りは遅いのう、もう一月に成るがのう」
 或日の事、病もすっかり治った御婆さまがやって来て二人を見て。
「はて、異な事が」
「あら御婆さま」
「権六、大事な話が有るでな、座敷まできなんしゃれ、其方は此処に」
「改まって、何事ですかいな」
「どうする積もりじゃ、お嬢さまと式も上げない内にややが出来たと有っては、世間の物笑いじゃ」
「御婆さまも到頭耄碌されたか、彼の女は御嬢さまでなか、御婆さまが遣わした賄い女ではないか」
「此の大たわけの、馬鹿者めが、未だ気がつかぬか」
「真坂、そんな阿呆な」家守の権六は大間違いをこいて居ったので有る。
「此処はよう考えねばのう、間違いでしたと逃げてかえっては、末代までの恥、いっその事、間違いを最後までとうしてしまうかだがじゃのう」御婆さまは二人をそのままに帰ってしもうた」
「昨日、御婆さまはと何やら話して居ったが何を話て居ったのじゃ」
「其方の行く末のことじゃ、父無し子等産んでは一生結婚等出来まい、余りに可哀そうなので我慢して夫婦に成ってやれと御婆さまにきつう言われた、御婆さまには逆らえんでのう」「其方がしでかした事では無いのか」「妾の気持ちは聞かんのか」「尿垂れをする様な女の、貰い手が何処に有る、贅沢を言うで無い」権六は間違いを無理矢理通してしもうたので有る。
 二人は野良仕事の合間に焼き物も続けた。出来損ないの茶碗や壺も割ってしまう気に成れ無いで居ったとか。味の有る日常茶器を焼き続けたそうな。地元の人からは重宝がられたそうな。          権六は死ぬまで威張り散らしたそうな。女もそんな夫に惚れて居たので有ろう。そうで無かったら五人もの子を儲ける筈も無か。



              2005−04−29−28−OSAKA

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