ムニャムニャ言語学

 フランス国とスペイン国の国境を跨ぐ、地中海に在るカダベル諸島(架空の島)は地図にも載って居無い小さな島の集まりで有る。昔から戦争の度に両方の統治下に置かれた。ローマ時代は地中海の要所でも有り、行き交う商船から法外な通行税を徴収して居た。巨大な石造りの水道橋や演劇場の遺跡は今だに地震で壊れる事も無く実用に堪えて居る。歴史上、相次ぐ戦争の度に統治が替わり、公用語も猫の目の様に変わった。イタリア語やフランス語やスペイン語が入り乱れ、言語が乱れた。住民は困り果て、当地の昔からの方言のムニャムニャ語を喋る様に成った。ムニャムニャ語はフランス語に近く、日本人には何を言って居るのか分から無い、言語学者泣かせの言語で有った。テレビのニュースでは字幕が出るので誰も困る事も無く勉強しよう等とは誰も思わ無かった。何と当地では猫までムニャムニャ語を喋って居るので有った。人は猫の喋るムニャムニャ語を理解出来るが猫は人の喋るムニャムニャ語は理解出来無い様で有ったが。
 日本も同じ島国では有ったが外国からの攻撃を受けたのは戦前では元寇丈で有る、神風が吹いて統治される事は一度も無かったので有る。外国の侵略が有れば言葉も大きく変わる。言葉の広まりは又侵略の歴史でも有る。江戸時代の鎖国で日本独自の言語が発展し、独自の文化を開花させた点では鎖国も大きな意味が有ったので有る。戦時中は敵国の英語を話すのを禁止迄した、米英鬼畜と言って居たの有るが、敗戦後は一変して進駐軍の言い成りで有った。戦後は入試の必須科目にも成り、猫も杓子も難解な英語の文法を死ぬ思いをして勉強為出したが、最高学府を窮めた人でも皆が皆英語を喋れる訳では無い。第二外国語にスペイン語を選ぶ人も多い、実際にスペインに行って、長年苦労して勉強して来た第一外国語の英語が屁の役にも立た無かった経験を為た人も居る。幼児番組のセサミストリートが未だに理解出来無い人も多い。スペイン国は日本からは地の果てとも思える程に遠いが、何故か日本語に似て居る。イタリア語も似て居るが発音が日本人には珍奇に聞こえる。フランス語は何言って居るか聞き取り難い。小学校でローマ字を教わる。ローマ字を習った御陰でパソコンの日本語入力も御手の物で有るが。中学校で習う英語の単語のスペルや発音はローマ字の規則に従わ無い、学生は大混乱で有る。スペイン語等のロマンス言語系ではローマ字に近い。高校でスペイン語も選択支が有れば奇跡が起きて居たかもしれない。
 ムニャムニャ言語を喋る当地の猫は神様扱いでも有る。ベッドの中まで忍び込むし、初めて訪れた御客の膝の上に迄平気で載るし、本業の鼠捕りを怠って昼寝三昧、餌を強請って足に纏わり着き淑女のスカートの中を覗き込んでも叱られ無い。犬はと言うとチャンチャンコを着せられ、大事に散歩に連れられ、車道に造られた珍奇な植栽が犬のトイレでも有る。汚い糞の始末迄人にさせて居るが、卑劣な者の代表でも有る。犬畜生と言う言葉も有る。飼い犬に手を咬まれると言う言葉も有る。鎖に繋ぐ事が法律で義務付けられて居る。
 世界中の猫がムニャムニャ言語を喋るが余り聞いた事が無いのは美味しい物を食べて居る時に撫でられた時にしか喋らない為でも有る、余り美味しい物を食べさせて貰えて無いので有ろう。美味な鼠に比べたら鰹節塗すの御飯は若干味が落ちる。想像はつくが当地の人で無いと良く判ら無い。猫の言葉を翻訳する翻訳機なる物迄売られて居るが、猫の言葉を翻訳出来ても、人の言葉を猫語に翻訳出来ても猫が理解で来て居るか疑問でも有る。猫の要求は理解できても猫は鼠を捕らえる事意外は何もして呉れ無いのが悲しい処でも有るが。呼んでも振り向きも為無いが、呼ば無いのに近付いて来る。カルメンの小説の一節でも有る。猫は気紛れの代表でも有る。犬は尻尾を振って頭を下げて近付いて来るが、猫は気紛れか時に咽喉をゴロゴロ鳴らして人に近付いて来る、何やら気持ち良さそうでも有る。幸せそうでも有る。御産をして咽喉をゴロゴロ鳴らし泪を流すのを観た事も有るので恐らく本当に幸せなので有ろう。
 カダベル諸島はスペインの統治が長かった為かスペイン色が強い。場違いに大きい石造りの古いカテドラルが町の中心に在り、場違いに大きい広場も在る、かって教会で王室の結婚式やミサや葬礼も盛大に行われ、かってのスペイン王国の栄華が偲ばれる。地中海の要所で有る事は今も変わら無い。かっては広場で演劇や闘牛、死刑の執行迄行われたので有る。
 犬のインベシーは犬で有るのに雌黒猫のベルダに気が有るのか、見つけたら追い駆け廻す有様で有った、罰当りな話で有る。飼い主のマーサ夫婦も罰当り夫婦で有った。長年やや子が出来無い事を良い事に遊び呆けて居ったので有る。良い歳に成り跡継ぎが欲しく成ったのか、最近は身を慎み教会に通う敬虔な信者にも成り、世間の信望も得て居るが其の思いが次第に高じるので有った。喪服を着て葬礼に参列し、死者を送る度にやや子が欲しく成ってしまったので有る。罰当り夫婦でも有った。黒猫のベルダはやや子が出来れば自分へんの関心が薄れるのを知るよしも無いのか、何時も冷ややかな目でソファーの上で二人の行為を見て居った。
「小便したいのならサッサと為て来い」如何やらマーサが催して居るのは尿丈で無かったので有る。
「見たく無いの」モジモジと何時もの罰当りな淫乱な病が又始まった。
「今日みたいな日に罰当りな」と亭主のアダル
 亭主も亭主で喪服姿の女房に興奮するのか、夜迄待てずに日中の内にしてしまうので有った。犬のインベシーは盛りが付いたのか、吠え喚き首輪を外し夫婦の寝室の黒猫のベルダを追い廻しに入り込んだ。吃驚した裸の亭主は枕で犬を殴りつけ寝室から追っ払った。ベッドの下で怯え毛を立てて唸っていた猫のベルダは漸くして落ち着いた。夫婦の前に恭しく歩み寄り何か一言、二言、三言訳の解らぬ言葉を言った。
「長年育てて戴いて有難う、御礼に其方の願いを叶え、三つ子を授けよう、将来一族の自慢と成るで有ろう。今日限りげ御暇しとう御座居ます。吾身を捜す事の無い様に」ムニャムニャ語の解るマーサには其れが解った。猫の恩返しで有る。其の日から黒猫のベルダは何処かへ行ってしまった。黒猫のベルダが言った様にマーサは身篭りやがて三つ子を産み落とした。罰当りな行為をした天罰が降たので有る。一人の子を育てるのも大変な時代、三人の子を一人で育てる悲劇。夜中も泣き出す始末。亭主のアダルは子育て等は知らん顔。遊び呆ける間等無く成ってしもうたので有る。出費も嵩み小遣いの財布の底が尽きた。同じ血統家族なのに一人はイタリア語を喋り、一人はフランス語を喋り、もう一人はスペイン語を喋って、其々が其の言語以外の言語は聞いて理解出来ても不思議な事に終に喋れ無かったので有る。方言のムニャムニャ語は全員喋れてが。成長し一人は講義上手で大嘘吐きの教師に成り、一人は演説上手の二枚舌の代議士に成り、もう一人は説教上手の牧師の身で苦労して言語学者に成ったが未だにムニャムニャ語の文法の解明には到って居無い。三人とも其々良き伴侶に出会い、名を挙げ一族の自慢でも有った。
 地中海のカダベル諸島の人々は未だに雪夜の晩には猫の生首巻を為て寝て居る。



          2008−01−21−292−02−01−OSAKA



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