おみつ殿の馬乗り

 むかし、むかし、あるところに、それはそれはげんきなむすめがおったそうな。いとこどうし、けんかををしては馬乗りになっては、とくいになっておったそうな。或る年、天災に因る飢饉と、悪い疫病が流行り、多くの人が亡く成った、弟が兄の子を引き取って育てる等珍しい事では無かったので有る。
 太一と父の兄の後妻の連れ子のおみつは二つ歳違いの従兄妹では在ったが、血は繋がって居らなんだ。おみつは年下で在るにも係わらず、姉じゃの様に小言三昧で在った。太一の母が亡くなって自は、母じゃの如くに小言三昧、言う事を聞か無いと馬乗りに成っては、折檻を繰り返して居ったので在る。酷い娘が居ったもので有る。其の後は何を勘違いしょったのか女房に成った気で居る見たいで在った。いやはや、何を考えて居るのやら。
「太一、汚れた着物を何時迄も着て居るで無いぞ、娘御に嫌われますぞ」
「太一、あれ程言ったのに、未だ部屋を片付けて居らぬのか」
「太一、汚れ物は何時もの所に入れて置くが良い、恥ずかしがらずとも良い、元気な証拠じゃ」
「太一、あそこを余り弄るで無いぞ」小言三昧で在った。
「のう、従兄妹同士の結婚は矢張りまずいので有ろうかのう」
「おみつ殿は好いた御人でも御座るのか」「早くややが欲しいものじゃのう」「わしが結婚する迄、御待って下され」「一度二人で神社にでも詣でて見ようかのう」
「父上、私には縁談は無いのでしょうか」「何故、其んなにせっつく」「私が嫁を娶らねば、おみつ殿も嫁げませんぬ、おみつ殿が可愛そうじゃ」「可笑しな事を言い出し居るのう、おみつは嫁にしたいと言う男さえ居れば何時でも嫁に行けるぞ」「其れは困ります、誰が飯を炊くんですか」
 或る日の早朝の事、太一が目を覚ますと傍におみつ殿が寝て居った。
 何時もは小言三昧のおみつ殿も寝て居る時は、何と言う可愛いい寝顔で有るのか。太一は思わず御乳に触ってしまった。
「太一、呆れた返った者じゃ、妾の寝間に夜這いとは、恥知らず」「寝惚けて居られるのは、おみつ殿じゃ、此処は私の寝間で御座るぞ」「厠へ行って、間違えたのであろうか、其れにしても其方の身体は温たかくて気持ちが良いのう、思わず催してしもうたぞ」
「早よう、御自分の寝間に御戻り下さい、父上に見つかったら大事です」
「其方は、何と言う意気地無しじゃ、妾を好きで好きでたまらぬのに何故素直にそう言えぬ、白状致せ」 おみつ殿は馬乗りに成ってしまい,寝巻きの襟首を捕まえて迫った。
「おみつ、何を致して居る」到頭太一の父に見つかってしもうた。なんぼ叱られても応え無いらしいが。 たまりかねるた太一は父に泣き付いた。
「誰でも構わぬ、早よう嫁御を探して下され」
 其れから何日か経って。
「父上、嫁御は見つかりましたか」
「近くの村には碌な娘は居らんぞ、一人居るには居ったが、未だに寝小便を垂れるそうな、其んな娘ならおみつの方が未だましぞ」「妾ならかまわぬぞ、嫁御に成ったる。今日から一緒に寝たる」おみつに聞かれてしまい、大変な事に成ってしもうた。
「良かったのう、嫁御を娶れて、仲良う致そうぞ」
 太一が湯殿で入浴して居るとおみつも入って来てしまい。
「恥ずかしがらぬとも良い、もう夫婦ではないか」
 太一が寝て居ると又、寝惚けてか寝床に忍び込んで来てしもうた。
「寝惚けては居らぬ、お前さま、妾は催して参った、何とかして下され」
「早く厠に行きなされ、ちびったら大変ですぞ」「催して居るのは尿では無い」
「一度で良いから、尿垂れをしてしまう程気持ちの良い事をして見たい物じゃ」如何やら夫婦の睦言を催してしまって居る様で有った。
「其方は病気か、傍に女子が寝て居っても催したりせんのか、妾を恥ずかしめたいで有ろうが白状致せ」 馬乗りに成って、寝巻きの襟首を捕まえて迫った時、力んだ拍子に事も有ろうに、我慢して居った尿が迸り出てしもうた。余りの恥ずかしさに放心状態のおみつ殿が急に愛しく成ってしまい、太一はおみつを侵してしまったので有る。
「お前さんの父上にだけは、言わんといてや」
 おみつの様子が可笑しいのは太一の父上にも直ぐに分かってしまい。
「太一、おみつに何をしでかし居った」太一は散々叱られてしもうたので有る。
「呆れた果てた者じゃ、良い歳こいて、寝小便まで垂れ居って」太一の寝巻きも布団もびしょ濡れで有った。
 其の夜はおみつは何を勘違いしたのか赤飯を炊き居った。
「何か、目出度い事でも有ったのか」「一寸な」
 四月程経っておみつの御腹が膨らんで来た、如何やらややげ出来たらしい、最早世間に隠し通おせ無く成り。おみつは一旦、知合いの養女に成り、改めて嫁に貰う事と相成った。
 おみつは元気な女の子を産み落とした。子を抱いての初めての宮参りの時のおみつの誇らしげな顔と言ったら。しかし、直ぐに何時ものおみつに戻ってしもうた。小言は垂れるは、馬乗りには成るは。いやはや呆れた果てた母じゃ人で在った。

              2005−06−25−45−OSAKA


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