椿の花の精

 むかし、むかし、おおかわのつつみのそばに、それはそれはおおきな椿の木が三本も生えて居たそうな真ん中の大椿は特に大きく、庄屋さまの一人息子の餓鬼大将の太郎は何時も其の木に登っては天狗に成って居ったそうな。
 或る日の事、太郎が椿の木の上で昼寝をして居て目を覚ますと、娘が傍で寝て居った。
「こないな所まで、如何して登れて来れた、御前様は一体何者じゃ」
「うちか、うちは椿の花の精じゃ、此の世の者では御座らぬ」「もののけか」
「日頃の世話の御褒美じゃ、何か願いを叶えて遣わす」何やら良い匂いのする姫御前だった。
「御乳に触っても叱らぬのか、御尻に触れても叱らぬのか、前を弄っても叱らぬのか」太郎は暫しの間、夢心地で有った。
「そうじゃなあ、御前様の様な、綺麗な姫御前と夫婦に成り、やや子が欲しい物じゃ」
「これ、其方は未だ子供では無いか、何て事を言い出すのじゃ。老成な男の子じゃ。今後、三日後に此の木の下で出会う娘と夫婦に成るが良い、其の娘なら7人もの元気な御子を産んで呉れるで有ろう」
 三日後に太郎は草陰に隠れてじっと待って居ると、一人の娘が遣って来て、御春で有った、誰も見て居無いのを良い事に、御尻を捲くって尿を気持ち良さそうに勢い良く放き出した。太郎は見ては為らぬ物を見てしまい、欲情を抑制出来無く成ってしもうて、娘を後ろから犬の様に犯してしもうた。
「結婚したるから、言う事を聞け。今宵からは、もう夫婦じゃ」二人共、交接したら夫婦に成るものと思い込んで居った。未だ子供で有った。
「如何して、此んな酷い悪さをしよるのじゃ、御前様はもののけに騙されて居るのじゃ、好い加減に目を覚まさぬか」娘は太郎をひっぱたいてしもおうた。
「此の様な酷い悪さをした事が母じゃに知れたら、又、叱られるぞ、うちの言う事を聞くと誓えるか。
「御乳は何時から膨らんだのじゃ」御春の御乳を触ってしまった。「阿呆、しょうの無い、男の子じゃ」「母じゃに如何の様な躾を受けたのじゃ。うちに、嫁御に成って躾けられたいのか」
「痛かったのか」「烏に見られてしもうた」「誰にも言うで無いぞ、うちは恥ずかしい」
 太郎は大変な悪さをしでかしては、悪さを隠す為に、机の前に座っては勉強して居ったそうな。
「太郎、此んな所で何をして居る」「勉強じゃが」「又、何か悪さをしでかしよったなあ、又、わては謝りに行かねば成らぬのか」母じゃは又、悲歎に眩れてしまい。
「未だ何もして居らんがな」「此の嘘吐きめが」「又、打たれたいのか」三発も打たれてしもうた。
「御春と夫婦に成ってしもうた、後生だから今宵だけは叱ら無いで御呉れ、赤飯を炊いて祝って欲しい」「何を祝うと言うのじゃ」「大人に成った祝いじゃ」
 何時も叱ってばかりの母者人も何も言わずに赤飯を炊いた。
「如何した、赤飯なんか炊いて」父はしきりといぶかしがった。
 初潮を迎えて未だ一月も経た無いのに、御春にやや子がに出来てしもうた。未だ子供で有ったのに。大変な事に成ってしもうた。夫婦は一人息子の不始末を如何して謝まろうかと思案に眩れて居る間に、怖い叔父様が御春を連れて話を付けに、遣って来てしもうた。
「御宅では一人息子に如何の様な躾をして来られたのか、一度聞かせて貰いたくて来てしもうた、誤解せんで下さい、別に謝って貰おうとか、御金をよこせとか、其う言う積もりは更々無いのでな」
「太郎、此処へ来て、御春に謝れ」滅多に叱ら無い、父まで叱りつけてしもうた。
「わしは、悪い事したとは思っては居らぬ、やや子が欲しかった丈じゃ」「此の罰当たり息子めが」
「御春、如何する、此の儘じゃ帰れんのう」
「うちは、もういやじゃ、もう、家には帰りとうは無か、皆んなから白い目で見られるのは嫌じゃ」
 散々叱られて、しょげ返って居る、太郎の方をチラッと見て。
「阿呆、呆け、粕、うちが嫁御に成って、御前を躾たる」
 怖い叔父様は御春を遺して帰ってしもうた。
 両親はとりあえず御春に行儀作法を教える事から始める事とあい成った。当の御春と太郎は顔を合わせては。「阿呆、呆け、粕」喧嘩ばかりして居った、本に子供で在った。
 太郎は両親に酷く叱られ、椿の木の上で泣いて居った。未だ子供で有った。
「又、叱られ居ったのか」又、椿姫は現れて慰めるので有った。
「其方とも暫く会えぬ様に成った。妾は千年生きて見たいと思って居る。其の為には百年毎に生まれ変らねば成らぬ、其の為には一度死なねば成らぬのじゃ」
「御前様は死ぬのか」「再生の為ぞ」
「御願いが御座る、今後三日後に此の木の下で白髪の老婆が行倒れで亡く成るで、此の木の下に埋めて欲しい」「其の老婆は御前様なのか」
「三日の内に百歳の老婆にに成ってしまうか」「巨木も枯れるのじゃ、永遠の生命等、此の世には御座らぬ」「目印に其方の御守りを手に結わえて置こう、其方の御守りを妾に呉だされ」
 三日後何やら人だかりが大椿の下で。白髪で皺だらけの顔の老婆が死んで居った。
「誰か、役人を。老婆が行き倒れで死んで居るぞ」白髪の老婆の左手には太郎の御守りが確かに。
「其の女は前に、此処に埋めて呉れと言って居った。誰か鍬を貸して呉」
「此の御年寄りが其方に言ったのか」「三日前に確かに言うた」「わしも手伝ってやる」
 太郎は服を泥だらけして帰って来たが、母じゃは得には叱らなかった。
「母上、人が亡く成ったと言うのに、赤飯等炊いたりして、不謹慎では御座るらぬのか」
「赤飯を炊く様に御願いをしたのは、うちや」御春は言った。                   「今度、もののけ姫に再び会えるのは百年先、最早二度とは会えぬぞ、今宵からはうちをもののけ姫と思うて悪さをしよる事じゃ、うちも、御乳や御尻を触わる悪さをしよっても、其方を打つたりはせぬ事にした」「子供扱いするで無い」「其方は子供では無かったのか」
 大人に成って、太郎も悪さをせぬ様に成り、御春も美人の嫁御と成った。睦まじい二人で有った。
 御春は七人もの子を産み、太郎も天寿を全とうした長生きでは在ったが、死ぬ迄もののけ姫に再び会いたがって居たとか。其の後、何百年も経って大椿の木も枯れてしまい、誰一人二度と椿の花の精には出会う事は無かったそうな。しかし、もののけ姫の話丈が孫や曾孫、玄孫に語り伝えられたとか。


              2005−07−18−51−OSAKA



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